6つの地域を渡り歩いたドウグラスが好んだ景観、四季、スタジアムに降り注ぐ光…それぞれの町に刻む思い出とは?【インタビュー】

柏レイソルのドウグラス【写真:Getty Images】
柏レイソルのドウグラス【写真:Getty Images】

Jリーグでは6つのクラブを渡り歩き日本は「第2の故郷」

 Jリーグの歴史を語るうえで、外国籍選手の存在は欠かせない。プレーヤーとしての実力はもちろんのこと、日本の生活や文化に馴染もうと努め、活躍につなげた例は多い。「FOOTBALL ZONE」では、「外国籍選手×日本文化」の特集を組むなかで、10年以上の月日を日本で過ごしたレアなブラジル人選手のJ1柏レイソルFWドウグラスに話を訊いた。キャリアの中、さまざまな地域で過ごしたドウグラスは日本の町にどのような印象を抱いているのだろうか。(取材・文=河合拓/全3回の2回目)

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 2010年に初来日したドウグラスは、Jリーグでこれまで11シーズンを戦ってきた。徳島ヴォルティスを皮切りに、京都サンガF.C.、サンフレッチェ広島、清水エスパルス、ヴィッセル神戸と5クラブを渡り歩き、2022年から柏に所属している。

 これだけ長く日本に過ごすことになったのは、サッカー選手としてドウグラスが高い評価を得たことは大きい。一方で選手も日本での生活に馴染むことができなければ、母国に帰っていただろう。ドウグラスも「第2の故郷」と表現するほど、日本を気に入ったことが、長い期間を過ごす要因となっている。

 そして日本人を含めても、ドウグラスほどさまざまな地域に生活の基盤を置く経験をした人は少ないだろう。四国、近畿、中国、東海、そして関東と、地方での暮らしを体験しているドウグラスに、それぞれの町の良さを聞いた。

 スタートは、日本でのキャリアをスタートすることになった徳島だ。

「本当にいい町でした。来日して間もなかったことで、いろんな困難に向き合うことになりましたが、それを克服できたのも、非常に落ち着いた徳島の町の雰囲気があったことは大きいですね。非常に過ごしやすい場所でした。神戸にも近かったので便利でしたが、川や自然も非常に多くあり、一言で徳島を表現するなら『落ち着いた町』でしたね」

 日本に順応していくなかで、最初に暮らした町が大きな役割を果たしたと言う。続いてドウグラスは、京都で生活をしている。

「京都はもう言わずと知れた古都ですし、歴史的な建築物や寺院が相当数あります。かつての日本の首都ですよね。かつて私はクラブハウスの近くに住んでいたんですけど、夏は暑くて、冬はとにかく冷えます。これは決して悪い意味ではなく、日本特有の四季折々の良さを見ることができました。観光する場所もたくさんありますし、海外から日本に来る人たちにとっては絶対に外せない町でしょうね。今でも、『いつか日本に来たい』『今度、日本に行くよ』という人に対しては、京都は観光したほうがいいと伝えています」

優勝を経験した広島では「町全体に平和が満ち溢れている」 清水は「たくさんのいい思い出」

 2014年シーズンを過ごした町をこのように紹介しているドウグラス。2015年に初めてJ1でプレーする機会を得たのが、広島時代だった。2シャドーの一角としてポジションを掴み、リーグ優勝にも貢献した。

「広島というと、原爆が投下されたことで世界的にも知られることになった歴史的な町ですが、災難があってからも、町が再建されていて、景観は素晴らしいものがあります。現在の広島は町自体に平和が満ち溢れている印象ですね。私が広島に住んでいた時は、宮島にも何度も行きましたし、非常に素敵な場所でした。やっぱりサッカーに関しても、自分のキャリアのなかで忘れることができないクラブでしたね」

 1シーズンのみの在籍になったものの、リーグ戦33試合で21得点を挙げてベストイレブンにも入った1年を振り返った。広島を退団したドウグラスは、UAE1部アル・アインで2シーズン、トルコ1部アランヤスポルで1シーズンを過ごし、2018年の夏に日本に戻ってきた。新たな挑戦の場に選んだのは、港町でもある清水だった。

「清水というよりも、静岡全体の印象になりますが、非常に明るい町でした。富士山に代表されるような日本屈指の非常に美しい景観がありました。実は私は清水在籍中に日本の運転免許を取得したのですが、クラブハウスと自宅を行き来する際には、富士山を窓の外に眺めながら往復していました。毎日、素晴らしい景色を見ながら人生についてなど考える時間がありました。今でもトレーニングに向かう時に見た富士山の景色を思い出すことがあります。本当に清水在籍期間中にはたくさんのいい思い出があります」

 3シーズンぶりに復帰した日本の印象を、清水がさらに良くしてくれたと語った。清水ではクラブ新記録となる7試合連続得点を記録するなど、在籍1シーズン半でリーグ戦45試合に出場して25得点を記録した。そんな活躍を受けて2020年には、同じく港町を本拠地に持つ神戸へと移籍している。ピッチ内では元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタともプレーする特別な経験をしたが、ピッチ外での暮らしも充実していたという。

神戸は「パーフェクト」 柏は「日の照り方が違う」

「神戸は、簡単に言うと『パーフェクトシティ』ですね。大阪の隣という立地もそうですし、港町で町が非常にコンパクトでした。どこに行くにしても交通手段が整っていましたし、神戸も非常にいい時間、幸せな時間を過ごせた町でした」

 そして、現在も生活をしている柏での生活については、「昔から関東圏、東京の近くに住みたいなという思いは持っていました」と、念願だったという。

「実際に柏に来てみて、自分自身、本当に幸せな日々を送れています。神戸に住んでいた時も大阪に近くて良かったのですが、柏から東京は若干距離的には遠いかもしれませんが、それでも希望通りに東京の近くで生活ができています。なんといっても、この柏で印象的なのは日の照り方が、これまで住んでいた他の地域とは異なるように感じます。レイソルは『太陽王』と呼ばれるチームですからね(笑)。それは冗談だとしても、本当に試合の時にスタジアムに降り注ぐ光を見ていても、すごく明るい雰囲気で、非常にいい雰囲気のチームであり、土地柄だと感じています。ここでも本当に心地よく、幸せに暮らせています」

 そんな思いを持つチームだけに、現在の残留を争っている状況には悔しさを感じているという。

「今シーズンは、なかなか思うように勝ち点を積み上げられずに上位で戦うことができない、厳しい難しいシーズンになっています。今、真摯にこの状況を受け止めて、少しでも早く降格争いを抜け出して、1つでも順位を上げることが重要になります。この先、誰が出ようが、誰が点を取ろうが、まず私たちはサポーターのために、サポーターに勝利を捧げなければいけませんし、サポーターと喜びを分かち合いたいと思っています。降格することだけは、絶対にあってはいけませんし、そうならないためにも、1つでも順位を上げられるように私は最後まで戦うつもりです。J1残留は、必ず達成しないといけないミッションです」

「2024年の新シーズンのスタートからは、また違う1年になるように、再びJ1の舞台で戦えるように、そしてそこからタイトルを目指せるように今は1つでも多くの勝利を積み上げ、勝ち点を積み上げ、ホームでサポーターと喜びを分かち合いたいです。自分がこの先、試合に出ようが、出るまいが、どんな形でもベストを尽くして戦うことは何も変わりませんし、それはほかのチームメイトたちも同じ思いのはずです。どんな状況になっても、諦めることはあり得ません」

 最後には、ドウグラスはそう宣言していた。

[プロフィール]
ドウグラス/1987年12月30日生まれ、ブラジル出身。2006年に地元マラニョン州を本拠地とするモト・クルブ・ジ・サン・ルイスでプロキャリアをスタートさせた。ブラジルでクラブを渡り歩いて10年に徳島ヴォルティスへ加入。13年にはJ2で29試合12得点の活躍でチームのJ1昇格へ貢献した。14年途中に京都サンガF.C.へ移籍し、15年にサンフレッチェ広島へ。広島では33試合21ゴールを挙げて、得点王争いを演じた。優勝に貢献後、UAEやトルコでプレー。18年に日本へ復帰し、清水エスパルス、ヴィッセル神戸を経て21年から柏でプレーしている。15年にはJリーグベストイレブンに選出された。

(河合 拓 / Taku Kawai)



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