柏が首位・神戸を圧倒? パス本数&ポゼッションが表すチームの変化、新指揮官が実感した手応え

神戸とドローの柏【写真:徳原隆元】
神戸とドローの柏【写真:徳原隆元】

【識者コラム】オウンゴールで追い付くドローも、首位の神戸に引けを取らない試合内容を展開

 5月20日のJ1リーグ第14節、ネルシーニョ体制に終止符を打った柏レイソルが、ホームで首位のヴィッセル神戸を圧倒した。

 結果は引き分けで唯一の得点もオウンゴールだったが、序盤から前がかりの姿勢を見せ、特に後半は神戸を自陣に釘づけ。決定機も3度以上は連ね、神戸のオウンゴールを誘発したのも高い位置からの守備だった。

 サポーターの「井原コール」に包まれて始まった首位神戸へのチャレンジマッチで、井原正巳新監督は「積極的なミスはOK、アグレッシブに自分たちが持っているものを全て発揮する」ように働きかけたという。もちろんまだ1試合で結論を出すのは早計だが「選手たちから萎縮は感じられず、それぞれが自分のプレーに責任を持ってハードワークしてくれた」と指揮官は総括した。

 前半は現在首位を走る神戸に試合巧者ぶりを見せられ後手に回った。開始早々の8分には中盤に下りて“くさび”を受けた大迫勇也が巧みなターンで古賀太陽を置き去りにすると、後ろから蹴られてもプレーを続けて佐々木大樹のクロスバー直撃のシュートを引き出す。そして同24分には汰木康也のクロスが柏守備陣の判断ミスを誘発し、武藤嘉紀が冷静にフリーの大迫に繋げて簡単に先制した。

 しかし神戸と同様に右サイドバック(SB)の川口尚紀を高い位置に上げ残り3人のDFでのパス回しから構築に入る柏は、攻守に広範な貢献を見せるマテウス・サヴィオがトップ下の位置から支え、2人のボランチも積極的に飛び出していく多彩な攻めで反撃に出た。とりわけ後半13分に長身で推進力も備えたフロートを入れてからは、再三神戸のゴールを脅かし完全に主導権を手繰り寄せた。

神戸より100本以上も多くのパスをつなぎ、試合内容で手応え

 ちなみに柏は4月9日、同じくホームでの鹿島戦で初めてフロートと細谷真央のコンビをスタメンで起用し、リーグ7節で今季初勝利を飾っている。だが後方からでもボールを持った選手たちが2トップ、もしくは裏を狙って蹴りこむ単調な攻撃が目立ち、3ポイント奪取という結果とは裏腹に必ずしも賞賛に値する内容ではなかった。

 だがこの日の神戸戦は、全体が押し上げて各ポジションの選手たちが距離を縮めて連携しながら、機を見て効果的なカウンターも繰り出す展開で、ポゼッションも54%を記録し、神戸より100本以上も多くのパスをつないだ。

 クラブでネルシーニョ前監督のサポートを務める時間が長かった井原監督も、しっかりと勝ち切れなかった悔いを引きずりながらも手応えは感じた様子だ。

「首位の神戸を相手に、あれだけチャンスを作れたことをポジティブに考えたい。神戸には前からの強度の高いプレスがあるが、それをかいくぐれれば高いラインの裏をつける。今日はサイドを起点にして何度か押し込む形も作れた」

 対照的に神戸の吉田孝行監督からは「これだけ難しいゲームで1ポイント取れたことは良かった」というコメントが漏れている。

「もう少し前から行きたかったが、プレスのはめ方も含めて自分も反省をしないと…。守備に限らず、中盤でもミスが出て、相手を乗らせてしまった」

 逆にここまでの低迷を振り払うような柏の戦いぶりは、故障者も目立ち始めてやり繰りが難しくなりつつある神戸の課題も浮き彫りにした。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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