東大サッカー部、走りのスペシャリストが説く“頭脳×スプリント練習”の親和性と効率化

秋本真吾氏【写真:石川 遼】
秋本真吾氏【写真:石川 遼】

秋本真吾氏が今年2月にスプリントコーチに就任して指導

 プロ野球選手やJリーガーなど多くのアスリートに走り方を指導する秋本真吾氏は今年2月、東京都大学サッカーリーグ1部の東京大学ア式蹴球部(体育会サッカー部)のスプリントコーチに就任した。元Jリーガーの林陵平監督率いる頭脳派集団に走りの基礎を教え込んでいる。

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 5月、東京大学農学部グラウンドで行われた秋本氏によるトレーニングに足を運んだ。ウォーミングアップの後にミニハードルを使ったスプリントや2人1組でロープを使ったメニューなどみっちり1時間。秋本氏は走る際の身体の使い方や上半身の姿勢、手の振りなど細かく指導した。一定の間隔に置かれたミニハードルの上を飛び越えるようにして走り抜けるトレーニングは、地面に着地する位置を意識させ、怪我をしにくい走り方を身につけるためのメニューだという。

「スプリントの際には地面に大きい力を加えなければいけません。サッカー選手は足を前に振り出してストライド(歩幅)を広げて走ろうとしてしまう選手が多いですが、力を入れるためには身体の真下に足をつかなければいけません。無理やり足を前に振り出すようにしてストライドを広げて走ることは怪我につながりやすい。あえて狭い間隔にミニハードルを置くことで、強制的に足を真下に置かざるを得ない状況を作る狙いがあります」

 今年2月に指導がスタートしてからおよそ3か月。この短い期間でも東大生たちの走りには明らかな変化が見え始めていると秋本氏は手応えを明かす。

「トップスピードに関してはカタパルト(スピードや走行距離などを記録するGPSデバイス)のデータでも更新している選手も多いそうです。僕のトレーニングで足が速くなることは約束できますが、今後はそれをどのように試合につなげていけるか。ボールを持っている時間が3分以内とも言われているスポーツですから、いかに走りを効率化できるのかが重要になります。(J2)いわきFCでは足をつったり肉離れを起こす選手は減っていますし、スプリント回数が増えていることもデータで証明されています」

秋本氏は「夏頃から走れるようになってくる」と自信

 これから選手にとっては、つらく厳しい季節を迎える。秋本氏は2021年12月からスプリントコーチを務めるいわきFCでの経験から「夏頃からかなり走れるようになってくると思います」と、本来なら足が止まってしまう夏場の暑い時期にトレーニングの効果が現れてくると自信を覗かせる。2年ぶりに東京都1部リーグに昇格したア式蹴球部にとっては、積み上げてきたものの真価が試される夏になりそうだ。

 優れた頭脳を持つ東大生と接するなかで秋本氏はその理解力や思考力の高さ、トレーニングに真摯に取り組む姿勢に感銘を受けていると話した。

「ロジカルで考えるのが好きな子たちで、最初に行った座学にもすごく食い付いていましたし、それに対して身体をどう動かすかというところもにも興味を持っています。みんなが考える力をしっかりと持っているという部分でスプリントトレーニングと親和性があると感じていました」

 実際に指導を進めていくなかで、課題が見えてきたのはアスリート能力の部分。ア式蹴球部は強豪校のようにスポーツ推薦で選手が集まってくるわけではないだけに、個の力は同じリーグの相手にも見劣りする部分があることは否めない。秋本氏は「僕が今彼らに伝えてることはいわゆるテクニックや方法論にすぎません。身体をどう動かすかというところの延長戦上に自分の理想像がありますが、そのためには基礎筋力と基礎体力がなければ技術の再現性は低くなってしまいます」と基礎的な部分の身体作りを怠らないことが重要だと強調した。

 ア式蹴球部では日本代表MF久保建英(レアル・ソシエダ)やMF中井卓大(レアル・マドリード)らが師事する「KOBA式体幹バランストレーニング」主宰の木場克己氏がスペシャルアドバイザーを務め、体幹強化に取り組んできた。

 今年、ア式蹴球部は2年ぶりに東京都大学リーグ1部に復帰し、開幕から5試合で2勝2分1敗と好調な滑り出しを切った。1部残留、そしてその先にある関東リーグ昇格まで走り抜くことができるだろうか。

(石川 遼 / Ryo Ishikawa)



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