GKは孤独なポジション? 日本代表シュミットが語る“GKチーム”の重要性「どれだけ1つになれるか」【現地発コラム】

シュミット・ダニエルが語ったGKチームの重要性とは?【写真:(C) STVV】
シュミット・ダニエルが語ったGKチームの重要性とは?【写真:(C) STVV】

シント=トロイデンの第2GKコッペンズと交代した訳「練習から彼は常に100%」

 GKは孤独なポジション。そんな印象が強いのではないだろうか。

 ピッチ上で唯一手を使うことができて、GKグローブを装着し、違うユニフォームを着て、失点と常に向き合わなければならないポジションだ。どれだけいいプレーをしていても、相手にゴールを許したらまずGKのプレーが批判の対象になってしまう。

 GKがどんな意図と狙いでどこにポジショニングを取り、どんな技術と戦術でどのように守ろうとしていたのかということへの理解がないと、GKのプレーを評価するのは難しい。そこを度外視して、結果だけで評価してしまうことがないだろうか。GKのことを僕らはもっといろいろと知る必要があるのではないだろうか。

 ベルギー1部のレギュラーシーズン最終節、シント=トロイデン対ロイヤル・アントワープの試合で、印象深いシーンがあった。アントワープの1点リードで迎えた終盤の後半35分、シント=トロイデンのベルント・ホラーバッハ監督はGK交代を行ったのだ。

 ゴールマウスを守っていた日本代表GKシュミット・ダニエルは、センターラインで交代を待つGKジョー・コッペンズの元へ駆け寄ると、がっしりと抱き合った。今シーズン限りでの引退を表明していたり、長年所属していたチームを去ることになった功労者が、ホーム最終戦で最後に出場機会をもらうケースはよくある話ではないかと思うだろう。しかしコッペンズはそのどちらでもなく、逆に契約更新をしたばかりだ。

 試合後のミックスゾーンでシュミットがこのシーンについて説明をしてくれた。そのうしろではコッペンズが地元記者の質問に笑顔で答えている。

「本当にね、練習から彼は常に100%で、本当にチームをいつでもポジティブに後押ししてくれて。セカンドキーパー以上の役割をいつもチームのために果たしてくれたので。僕も常にすごい後押しをしてもらっていた。

 僕個人的には、今日はもう普通に彼が90分プレーするべきとも思っていた。それに値する人物だと思う。それだけのことを今シーズンやってたから。結果的に途中交代でああいうふうになったけど、要はそれだけプレーする価値のある選手なんです」

 どんなチームにもGKは3~4人所属しているのが一般的だが、シーズンを通してプレーできる人数が限られる。誰だって試合に出たい。そこにはもちろんライバル関係はある。しかし、それ以上に深い信頼関係が彼らの間にはあるのだ。それぞれのGKとGKコーチで構築される“GKチーム”が機能していると、それこそ本当にチーム全体の雰囲気が良かったりする。

「試合に出る出ないはもちろん難しいところですけど、キーパーコーチも含めてそこでどれだけ1つになれるかっていうところは、本当にすごい大事だと思います。今年は特にそこのキーパーファミリーっていうところで、ウチのチームはすごいまとまってた。本当にキーパー練習っていうのは毎日楽しかった。そこはすごくこのチームの良かったところ。本当にこれ以上ないグループで1年間練習できたなって思ってます」(シュミット)

GKチームの存在は特別で極めて重要、全体の雰囲気を左右するファクター

 そうした例はほかにもたくさんある。バイエルン・ミュンヘンで正GKマヌエル・ノイアーの控えを長年務めるGKスベン・ウルライヒは、クラブ内で非常に高く評価されている。「自分がこのクラブでやるべきことはとても楽しいし、充実している。僕らはピッチ外で友として、そしてライバルとして、いい関係が築けていると思う」(ウルライヒ)と話していたことがある。

 バイルンのハサン・サリハミジッチSD(スポーツ・ディレクター)もそんなウルライヒに対して、「彼の人間性とメンタリティーはチームにとって理想的だ。自身のやるべきことを素晴らしく理解しているし、いざプレーする機会が訪れたら、その役割を完璧にこなしてくれる」と最大限の評価をしていた。

 フィールド選手と別れて自分たちだけでGKトレーニングをする。ハードに取り組み、互いに刺激しながら、常に全力でチャレンジし合う。互いにリスペクトし合える。そして練習が終わったら仲間として笑い合える。そんな関係は格別なものがある。

 そんな彼らに影響を受けて、チーム全体の雰囲気が良くも悪くもなる。GKは孤独なのではなく、特別で極めて重要な存在だ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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