三笘薫、決勝ヘッド弾はなぜ生まれた? ボーンマス戦で「どうしよう」と苦心→「入るな」へ蘇った訳【現地発コラム】

監督の一言から感じた「三笘を持ち上げ過ぎるな」のニュアンス

 デ・ゼルビ監督は試合直後のテレビインタビューで、2試合連続で決勝弾を決めた三笘についてこうコメントした。

「レスター戦やリバプール戦のような素晴らしいパフォーマンスとは言えなかったが、三笘はピッチに残しておけばゴールの期待が持てる選手だ」

少々の不調でも、三笘の類まれな決定力はチームにとって欠かせない要素だということが理解できる。さらに「三笘はプレミアに順応したか?」という質問が振られると、「あれ(決定力)は持って生まれた能力。我々は彼のママに感謝しなくてはいけない」と答え、日本代表MFの天性の素質に舌を巻いた。

 しかし、監督としては1人の選手が突出してしまうのは痛し痒しの状況ではないだろうか。そんなことをふと考えていると、幸運にもデ・ゼルビ監督と軽く話をするチャンスに恵まれた。テレビ取材を終えたデ・ゼルビ監督が会見室に入る直前、三笘を待つ筆者を見つけるとわざわざ話しかけてきたのだ。

「三笘がまたゴールを決めて、君はハッピーで仕方がないんだろう?」とデ・ゼルビ監督。「あなたもハッピーでしょう?」と返すと、43歳のイタリア人青年監督は「もちろん。しかし、私はチーム全体のことを考えている。(MFソリー・)マーチも(MFパスカル・)グロスもマック・アリスターにも活躍して欲しい」と言い残して、会見室へと消えた。「あまり三笘を持ち上げ過ぎてくれるなよ」、そうしたニュアンスが含まれた一言だったのかもしれない。

 そんなデ・ゼルビ監督が三笘の思い上がりを心配しているとしたら、それは杞憂だと申し上げたい。

 2試合連続の決勝弾を決めた試合後、三笘は「前半もっと上手くできた」「ミスも多かったので、そういう自分に対する苛立ちもありました」「引いた相手に対してもっと自分がやらないといけないと、今日また感じました。そういうところでの質をもっと高めていいかないとなと思います」と話し、喜びよりも反省を口にしている。

 三笘をここまで取材していて感じる最大の印象を一言で表現するとしたら、それは“謙虚”にほかならない。その根底には、やはり昨年に経験したカタール・ワールドカップでの悔しさもあるのだろう。カタールから帰還して以降、一段と鋭くなったと感じる眼差しがその根拠だ。

 プレミアでのデビューシーズンで燦然と輝く三笘。2試合連続の決勝弾を奪った程度で緩む気配は全く見せていない。

(森 昌利 / Masatoshi Mori)



森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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