横浜F・マリノスはなぜ“戦力充実化”できたのか 前田大然、宮市亮の飛躍から見える「中・長期視点」補強の結実
【J番記者コラム】好調・横浜FM、強さの秘訣にフォーカス
横浜F・マリノスのアタッキングフットボールが充実期を迎えつつある。
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前節終了時点で2位の鹿島アントラーズに勝ち点5ポイント差をつけて首位を快走。前節のセレッソ大阪戦(2-2)で引き分けたことで連勝は「6」でストップしたものの、ゲーム終盤に2点のビハインドを追いつく戦いぶりは地力の高さを示したとも言える。
3シーズンぶりの戴冠も視野に入るチームの強さの根源となっているのが層の厚さだろう。ここまでリーグ戦21試合を消化し、2試合連続で同じ先発11人が名を連ねたことは一度もない。毎試合必ずスタメンが入れ替わってもチーム力を維持できるのは、目指すべきプレーモデルが確立されているからにほかならない。
もっとも、本来はメンバーを入れ替えたかったわけではない。今季の横浜FMは開幕前から負傷者続出やコロナ陽性に悩まされ続けてきた。主力選手のほとんどに一時離脱した経緯があり、アクシデントなく戦えているのは唯一フルタイム出場を続けているGK高丘陽平と、フィールドプレーヤーではDF松原健とFW西村拓真くらいか。
開幕直後から中2~3日の連戦が続く日程の難しさも重なり、負傷離脱のリスクを軽減する必要があった。「全員がチームの戦力」というケヴィン・マスカット監督の言葉に嘘偽りはないが、メンバーを固定したくてもできない状況があったのも事実だ。
想定外の日替わりスタメンは、結果として選手層の底上げに一役買った。日本代表にも初選出された西村がファーストトップではなくトップ下でこれだけ機能する姿をプレシーズンに想像するのは難しく、ユース出身ルーキーのMF山根陸はボランチのバックアッパーとして計算できるところまで成長している。
そしてもうひとつ。昨季途中に加入した選手が半年間の雌伏の時を経て、今季は重要な戦力になっている点も見逃せない。代表格がFW宮市亮とDF角田涼太朗だ。
前者は昨夏に加入したが、コンディション不良も重なって安定した出場機会を得られなかった。後者はプロ契約締結を約半年間前倒しし、レベルの高い環境に身を置く道を選んだ。強化部は必要戦力として選手を迎え入れ、そこには多かれ少なかれコストを割いているのだから、加入後すぐにピッチで結果を残せればベスト。ただし、横浜FMが次善策を立てている点を見逃してはいけない。
分かりやすい好例は、2020年夏に加入したFW前田大然(現・セルティック)である。前田は加入後の半年間で3得点を挙げているが、絶対的な存在ではなかった。圧倒的なスプリント能力こそ脅威を与えていたとはいえ、プレーの選択や役割を整理し切れていなかった印象が強い。
それが2021年はチームを2位に押し上げる原動力となり、23得点を挙げて得点王に輝く。前田自身の成長や努力だけでなく、中・長期的な視点で補強を行っている強化部の施策が実を結んだ形である。
藤井雅彦
ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。