日本代表にとって”脅威” ツワモノぞろいドイツ代表でホフマンが”キーマン”に急浮上する理由

ドイツ代表MFヨナス・ホフマン【写真:Getty Images】
ドイツ代表MFヨナス・ホフマン【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】タレント勢ぞろいの攻撃陣でホフマンの存在が目立つ

 レロイ・サネ、セルジ・ニャブリ、ティモ・ベルナー、カイ・ハベルツ、ユリアン・ブラント、ルーカス・ヌメチャ、カリム・アディエミ。

 ドイツ代表の前線には資質やポテンシャルや所属クラブでのパフォーマンスからしたら、トップレベルの選手がそろっているわけだが、ひょっとしたら今度のカタール・ワールドカップ(W杯)で誰よりも貴重な戦力になるのでは? と思いたくなるほど評価が上り続けているのがヨナス・ホフマンだ。

 これまで代表とそこまで縁があった選手ではないし、所属クラブでエース級の活躍をしてきた選手でもない。古城で有名なハイデルベルクに生まれたホフマンはホッフェンハイムの育成アカデミーで育ち、ドルトムントのセカンドチームへ移籍。2012年にトップチームデビューを果たしたものの、当時ユルゲン・クロップのもとリーグ2連覇を果たしたチームで出場機会をつかむのは簡単ではなく、2013-14シーズンはマインツへレンタル移籍。元日本代表FW岡崎慎司をサポートする選手として期待されたが、足首の靱帯断裂で長期離脱し、10試合出場3ゴール止まりだった。

 翌シーズンドルトムントに戻ったがトーマス・トゥヘル監督の信頼をつかむことができずに冬にボルシアMGへと移籍を決断した。だがボルシアMGでもなかなか思うように出場機会が増えてこない。2016-17シーズンからレギュラーで起用されるようになると、毎シーズンコンスタントに出場はしているけど、得点、アシスト数で極めて優れた数字を残しているわけでもない。様々なポジションでプレーできるし、戦術理解は高いし、ミスが少ないけど、かといって他を凌駕する個人能力があるともいえない。

 そんなホフマンが2021-22シーズン注目を集めているのはなぜだろうか。

 ホフマンは味方のプレーを引き出すためのサポートが非常に優れた選手なのだ。例えば前述のサネ、ニャブリ、ハベルツ、ブラントといった選手は相手守備ライン間でボールを受けて勝負をするのが得意な選手。ベルナーは裏抜けが得意だけど自分が受けられるタイミングでだけ動きがち。ヌメチャやアディエミはまだ自分のことに集中して取り組む段階だ。

 その点ホフマンはスペースに入り込んでパスを受けたり、ワイドに開いてスペースを作ったり、守備ライン裏に走りこんで相手を困惑させたりと動きの多様さがある。そんな状況に応じてプレースタイルを変えることができ、それでいてボールを受けてもレベルの高いプレーができるホフマンが起用されることで、周りの選手が得意なプレーを発揮できるような下地を作り上げることができている。

 UEFAネーションズリーグ4戦目のイタリア戦ではそんなホフマンの素晴らしさがいたるところで見られた。開始30秒に右サイドからミュラーが送った見事なスルーパスでベルナーが抜け出すというチャンスがあったが、このシーンではホフマンが後方からのボールを、相手DFを抑えながらすっと流してミュラーへパスが渡ったところがきっかけ。先制点の場面でもゴール前にしっかりとつめることで相手DFをひきつけてスペースを作り、そこへ走りこんだヨシュア・キミッヒがフリーでシュートに持ち込むことができていた。

 その後も特にミュラーとの補完性が非常にいい。相手を引き連れてスペースを作った動きを察知して、すっとそこでパスを受けて起点を作れるから、そこからミュラーがパスをもらいなおしたり、さらにゴール前へと走りこむというふくらみを生み出すことができるわけだ。前半アディショナルタイム、イルカイ・ギュンドアンがPKを決めて2-0と点差を広げたドイツだが、ミュラーからのエリア内への浮き球パスを引き出してペナルティエリア内で倒されたのがホフマンだった。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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