「正直、僕らは決して強くない」 残留決定のボーフム、終盤に浅野拓磨の“使い方”をマスターできた訳「賛辞に値」

ボーフムでプレーするFW浅野拓磨【写真:Getty Images】
ボーフムでプレーするFW浅野拓磨【写真:Getty Images】

【ドイツ発コラム】ボーフムは1部残留が決定し、ホーム最終戦でも勝利 「選手はみんな全力でプレー」

 サッカー界は時間の流れが速い。毎週のように新しいことが起き、次に向けての情報がどんどんアップデートされていく。選手の移動は確かに日常茶飯事。でも本当のファンは、スマホのデータを入れ替えるかのように選手の入れ替えを眺めたりはしない。

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 炭鉱町ボーフムを本拠とするボーフムにはふさわしいヒーローがいる。例えばキャプテンのロシア。30歳でブンデスリーガデビューを果たした苦労人だ。現在35歳ながらなくてはならない存在で、今季残留の立役者の1人としてファンから深い信頼を得ている。

 そしてロベルト・テッシェ。新加入選手の活躍もあり、今季限りでクラブを去ることになっていた。ホーム最終戦となったビーレフェルト戦では他の当該選手とともに試合前にお別れセレモニーが行われたのだが、テッシェの名前がコールされるとゴール裏のファンからひときわ大きな声援が送られた。

 ファンは忘れてはいない。2部リーグ優勝を果たした昨季、大事な終盤5試合で5ゴールを含めた素晴らしいパフォーマンスで、愛すべきクラブを12年ぶりに1部へと導いてくれた英雄のことを。忘れるはずがない。

「テッシェがいなかったら俺たちはここにはいなかった!」

 2万5000人満員のスタジアムでファンは何度も何度も大きな声で歌った。残留を決定づけているボーフムにはホーム最終戦も本気で戦う理由がある。そして実際に素晴らしいプレーの連続で2-1の勝利を飾った。

 監督のライス氏は試合後の記者会見で「すでに残留したことでチームがどんなプレーをするのかというのがよく聞かれていたが、選手はみんな全力でのプレーを見せてくれた。賛辞に値することだ。試合開始から非常にアクティブで、いくつかのチャンスを作り出した」と選手のモチベーションを絶賛した。

 それはプロ選手として当たり前ということではなく、ファンと選手の絆、クラブへのアイデンティティのためにどんな試合でも全力でプレーしたいと思えるだけの空気感がこのクラブにはあることの証でもある。

 先制ゴールを決めたFWセバスティアン・ポルターは「勝利というのはいつでも素敵なものだね。今季ホームラストマッチでファンからのあんなに素晴らしい声援をしてくれるのを聞けるのはセンセーショナルなことだ。僕ら選手、スタッフ、コーチングチームそしてファン、みんなが今季の結果にふさわしいことをしてきた。僕らは本当にがっちりと一致団結することができたんだ。小さな子供のころに夢見たものがあるとしたら、まさに今の僕らだ。クラブをこんなにも愛して、クラブと生きている多くのファンで埋め尽くされたスタジアムでプレーできるなんてセンセーショナルなことだ」と、喜びを言葉にしていた。

 後半28分からピッチに立ち、試合後にはゴール裏のファンに呼ばれて別れを惜しまれていたテッシェは感慨深げにテレビインタビューに答えていた。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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