以前の浦和に似ているFC東京、人事を急ぐより明確なロードマップ作成を優先する時だ

長谷川前監督がチーム再建も…哲学も含めて丸投げしたことによる結果論にも映る

 指揮権はポゼッション志向のランコ・ポポヴィッチから、堅守速攻型のマッシモ・フィカデンティに移り、途中短期政権を挟み、同じような歴史は城福浩→長谷川という転換でも繰り返された。

 どちらかと言えば結果が伴ったのは、フィカデンティ、長谷川両監督が志向した堅守を土台にして個の突破力を活かす戦い方だったわけだが、実際に当時の戦力を見れば適性はそちらに傾いていたし、特に長谷川監督時代は前線に個で打開力を持つFWを集めて独特なチーム作りを押し進めてきた。

 だがいくら破壊力を持つ助っ人を並べても、個がばく進するばかりではスペースを消されると難しくなるし、徳島戦後に安部も語ったようにカウンターとポゼッションの切り替えスイッチを入れられる質のあるつなぎ役は必要で、それが最も機能していたのが久保建英の在籍中であり、次善策が森重真人のアンカー起用だったのだろう。

 長谷川前監督は、戦力を見極め経験値と志向に即してチームを立て直した。だがそれは指揮官に哲学も含めて丸投げしたことによる結果論にも映る。現在クラブは長谷川色に染まっているが、選手たちには「もっとボールを大切にして主導権を握るべきなのではないか」という疑問も芽生え始めていた。それが実情ではないだろうか。

 これまで迷走が続いて来た浦和レッズも、ようやく方向性が定まり、それに即して代謝も進んでいる。どういう哲学に基づきどんな色のサッカーを提供していくのか。それを決めるのはクラブで、その土台があってこそ監督選考や補強方針が決まっていく。FC東京の状況も昨年までの浦和に少なからず似ている。今は足を止めて、人事を急ぐより明確なロードマップの作成を優先する時だと思う。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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