教え子が続々とJクラブ加入内定――現役東大生はなぜキック専門トレーナーになったのか?

東京大学運動会ア式蹴球部のフィジカルコーチ田所剛之【写真:本人提供】
東京大学運動会ア式蹴球部のフィジカルコーチ田所剛之【写真:本人提供】

東大3年生の田所剛之、学業や部活動に励む傍らでキック専門トレーナーとしても活動

 東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部)フィジカルコーチで、東大3年生の田所剛之は学業や部活動に励む傍らでキック専門のパーソナルトレーナーとしても活動している。昨年、自ら執筆したベルギー代表MFケビン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)のキックに関する分析が反響を呼び、指導する選手の中からJリーグのプロ選手内定者も輩出している。現役東大生はなぜキック専門トレーナーへの道へと進んだのだろうか――。(取材・文=石川遼)

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 田所は小学校2年生でサッカーを始めてプレーヤーとしてのキャリアを歩むも、怪我もあってチームメートよりも1年早い高校2年生の春には部活を辞めた。そして進学先の東京大学では、教養学部統合自然科学科認知行動科学コースに所属。スポーツ科学を副専攻にしながら、スポーツバイオメカニクス研究室に所属している。

 入学当初は「サッカーに関わる何かをしたい」との思いでア式蹴球部に入部した。当時部内にフィジカルコーチはいなかったが、田所のために新しくポストが用意された。

「初めからコーチとしての知識があったわけでもなかったのでゼロからのスタートでした。正直、最初の2年間はあまり何もできていなくて(2020年シーズンまでチームを率いた)山口遼前監督からサッカーを学ぶ2年間だったと思っています。それでもこのままじゃいけないという思いは持っていました」

 20年3月頃には世界的に新型コロナウイルスの感染拡大が広まり、授業やア式蹴球部の活動もストップしたが、実家の高知に戻っていた田所はオンラインセミナーを受講し、セミナーの内容を踏まえた分析記事を執筆するなど、自ら研究を深めた。「記事を6、7本は書きました。デ・ブライネのキックに関する記事の反響が凄かった」。スポーツバイオメカニクス研究室で力学について研究する田所は、その視点から徹底的にベルギー代表の司令塔のプレーを分析。その正確無比なキックを解剖した。

 記事への反響の大きさをキック専門コーチの可能性の大きさだと感じ始めた田所。選手から連絡が届き、自信は確信へ変わっていったようだ。現在は、なでしこリーグのスフィーダ世田谷FCに所属するMF樫本芹菜や、東京学芸大蹴球部の副将MF武沢一翔、MF住田将らの指導を行っている。今年の夏頃からキックを指導してきた住田は来季のJ2・松本山雅FC加入が内定。さらに武沢のJ2・FC琉球加入も内定しており、田所は「本当にびっくりして、テンションが上りました」と自分のことのように喜んだ。

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