田中碧は“欠かせない存在” 飛躍の鍵はゴレツカ的プレーと“確認・調整・修正”

記者席から見て気になった“近すぎる”という感覚の違い

 日本とドイツとではプレースピードやパス交換の距離やタイミングが異なる。記者席から見ていて気になったのが、田中がもらおうとするパスの距離が近すぎることがある点だ。日本人選手の感覚ではパスが出てくる距離だと思われるが、ドイツでは数メートルの短いパスはあまり好まれない。そこでパス交換が行われても試合状況が変わらないからだ。

 それぞれのポジションには役割がある。例えばCBがボールを持っていたらそこは彼らの責任でパスを中盤から前線へ送ることが求められる。ボランチやインサイドハーフはいるべき位置でパスが出てくるのを待ち、タイミングよく攻撃へと移行していくことが役割になる。パスが来ないからと降りてくると、そこでパス交換はできても、“本来いるべき位置に選手がいなくなるので攻撃が手詰まりになるではないか”という指導者目線での指摘が出てくる。

 フリーでパスを受けることがイコールそのまま、次の攻撃を効果的に展開させる答えになるわけではない。味方選手にしても、そうした距離感とタイミングでプレーすることに慣れているので、近づいてこられると「なんで寄ってくるんだ?」という感覚になってしまう。

 だからそこで一度パスを受ける意図を共有する必要が出てくる。その後どんなプレーをするつもりで、どんなメリットがあるから一度預けてほしいという意思を共有できれば、互いに次のアクションへスムーズに移行していける。

 そうした点で重要になるのは円滑なコミュニケーションだが、田中は自主的にドイツ語をしっかり学ぼうと取り組んでいる。チームメイトにはU-21ドイツ代表MFアペルカンプ真大がいるが、それこそ日本語で話さずに英語でコミュニケーションを取っているという。自身の語学力をアップさせたいという強い思いの表れだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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