サッカーで「心を動かす」 プロ生活2年の元Jリーガー、浦和で確立した育成指導の哲学

浦和レッズハートフルクラブの初代指導陣。右端が落合弘キャプテン、隣が渡辺隆正コーチ【写真:本人提供】
浦和レッズハートフルクラブの初代指導陣。右端が落合弘キャプテン、隣が渡辺隆正コーチ【写真:本人提供】

岡田武史氏のサッカー観に共感、FC今治で「心を磨く」重要性を再認識

 池田伸康・現ユース監督もハートフルクラブ発足時からのコーチで、子どもの心をつかむのが大層上手く、大きな影響を受けたそうだ。

 07年から2年間は、レディースジュニアユース監督となり、08年の第13回全日本U-15女子選手権決勝で3連覇中の神村学園中(鹿児島)を破って初優勝。ここから史上初の5連覇を達成し、最多優勝7度を誇る強豪へと成長させていく。

 男子ジュニアユースには09年から2シーズン関わり、10年はU-15担当コーチとして関根貴大や広瀬陸斗(鹿島アントラーズ)、戸嶋祥郎(柏レイソル)らを指導。ユースのコーチに就任した11年は、トップチームのゼリコ・ペトロヴィッチ監督の解任に伴い、ユースの堀孝史監督が昇格したため、10月から暫定監督を任された。13年から2年間は再びジュニアユースのコーチとして、橋岡大樹(シント=トロイデン)や荻原拓也(京都サンガF.C.)らを育成している。

 ユース暫定監督の頃、岡田武史元日本代表監督の書物を読みあさり、サッカー観などに興味を持った。浦和のアカデミーで一緒だった池田誠剛フィジカルコーチが、「岡田さんに学ぶことはたくさんある」と話してくれたこともあり、いつか仕事をしたいと思いを巡らせた。岡田と池田は、日本リーグの東日本JR古河からのコーチ仲間で、横浜F・マリノスでは監督とコーチの間柄だった。

 その岡田がオーナーとなったFC今治が15年、育成の指導者を探していた。ハートフルクラブの元アシスタントコーチで、現在今治トップチームの工藤直人ヘッドコーチから連絡が入る。人を大事にする渡辺の人間性が運を手繰り寄せたのだ。

 FC今治ではU-15監督とコーチ、トップチームコーチのほか今治モデルグループ長を歴任。今治モデルとは、クラブと地域が連携して人材を育成する構想で、岡田メソッドという指導方法論は“守破離”の考えで構成されていた。渡辺は「心の豊かさを追求するのが岡田さんの理念で、ハートフルクラブと一緒でした。サッカーを通して心を磨くことをあらためて学び、やっぱりそこが肝心なんだと再確認できた」と達観したようにしみじみ語る。

 昨年1月、浦和から下部組織をまとめる役職を依頼され、アカデミーダイレクターに就任。クラブは昨季、3年計画を打ち出して中期的なチーム編成をスタートさせた。土田尚史スポーツダイレクターから地域に愛されるクラブづくりの指針を聞き、須藤伸樹育成担当部長からは既存の長所を生かしつつ、アカデミーとしての基盤構築を託された。

 渡辺の要望で昨年2月から『心を動かす』が育成の理念となった。

「心を動かす指導者、心を動かすアカデミーの選手になってほしい。浦和のサポーターって、上手いとか下手より懸命なプレーや心に響くものに共感する人がすごく多い。浦和と今治で吸収したものを生かし、地域に応援される存在になりたい」

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河野 正

1960年生まれ、埼玉県出身。埼玉新聞運動部で日本リーグの三菱時代から浦和レッズを担当。2007年にフリーランスとなり、主に埼玉県内のサッカーを中心に取材。主な著書に『浦和レッズ赤き激闘の記憶』(河出書房新社)『山田暢久火の玉ボーイ』(ベースボール・マガジン社)『浦和レッズ不滅の名語録』(朝日新聞出版)などがある。

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