五輪4位の日本に“足りなかった”のは三笘? 「個」頼みの攻撃でも“別格”だった突破力

メキシコ戦に途中出場でゴールを決めたMF三笘薫【写真:Getty Images】
メキシコ戦に途中出場でゴールを決めたMF三笘薫【写真:Getty Images】

【識者コラム】準決勝では森保監督の“構想外”も3位決定戦では別格のパフォーマンス

 三笘薫の登場は後半17分だった。すぐに左サイドをぶち抜く。1分後にはカットインから上田綺世へラストパス。その後も酒井宏樹のパスを受けてのシュート、上田への二度目のラストパス、そして同33分の2人をかわしてのゴールとメキシコ守備陣に脅威を与え続けた。最後にもう1回あったシュートチャンスは決めたかったが、約30分間に6回のチャンスを作り、1得点の働きは別格だ。

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 この三笘がいれば準決勝でスペインにも勝てたかもしれない、もっと早く登場していればメキシコとの3位決定戦も違った展開になったかもしれない――そう思ったファンも少なくなかったに違いない。

 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)から東京五輪代表の合宿に合流した三笘は、負傷を抱えていてフィットしていなかった。グループリーグ第2戦のメキシコとの試合で後半34分に堂安律と交代出場したが、これといったプレーはなかった。準々決勝のニュージーランド戦は延長から登場して片鱗は見せたが、準決勝のスペイン戦ではベンチからも外れていた。コンディションは問題なかったはずだから、この試合の森保一監督の構想から外れたということだ。

 五輪以前の強化試合でも、三笘は構想に入りきっていなかった。期待されていた役割は、どうしても得点が欲しい時のスーパーサブだろう。ただ、最後のメキシコ戦での無双ぶりを見てしまうと、結局このチームに足りなかったのは三笘だったのではないかと思えてしまう。

 攻撃の中心は久保建英と堂安のコンビだった。距離感の近いコンビネーションは独特、あまり他国には見られないものだ。ただ、日本代表では伝統芸といっていい。例えば2018年ロシア・ワールドカップ(W杯)なら乾貴士と香川真司の近接コンビがあり、14年ブラジルW杯なら本田圭佑、香川真司に大久保嘉人が加わったコロンビア戦は、実に日本らしい攻撃が見られた。

 この日本らしい、いわば「ジャパンズ・ウェイ」の近接コンビネーションは諸刃の剣だ。失敗した時にカウンターをもろに食らいやすいということもあるが、それ以上にこのコンビ自体がカオスの中に存在している。通常なら2人もいらないスペースに2人入ってきて相手を混乱させ、必要以上の人数を集めさせ、そこを破ることで効果を出すわけだが、もともと規格外の攻め方でもあり法則性がまるでない。

 カオスをカオスのまま放置するだけで、コントロールできたことがこれまでない。今回もそうだった。そして久保と堂安のコンビを除くと、あとは「個」しかなかった。どうせ「個」が頼りなら、単純に三笘で良かったのではないかと思うわけだ。

 相馬勇紀、久保、堂安も個の突破力はある。ただし、この領域で三笘は別格なのだ。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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