“本命”イングランドはお約束? EURO優勝予想に見る英国の威勢の良さと根本的問題

イングランドで毎回危惧される“燃え尽き症候群”

 ただし、こうしたメディアの威勢の良さは毎度のこと。EUROやW杯のメジャー大会直前になると、英国で突如としてイングランドが強くなる。

 しかし、本当にブックメーカーのオッズやモウリーニョ、レドナップという名将2人の意見は正しいのだろうか。

 直前の親善試合2試合を見た限りでは、全くなんとも言えない。オーストリア、ルーマニア相手に1-0勝利を続け、親善試合8連勝を飾って本番入りするが、今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝に出場したマンチェスター・シティとチェルシーの所属選手は、代表合流が遅れてどちらの試合にも出場せず。招集枠の26人から漏れた選手も使い「実験的」と言えば聞こえはいいが、この2試合のパフォーマンスを参考にして13日に行われるEURO初戦のクロアチア戦の予想はできない。

 また、マンチェスター・ユナイテッドのDFハリー・マグワイアの怪我も気になる。報道ではクロアチアとの開幕戦は欠場確定だが、そんな状態で今大会中にコンディションを持ち直すことができるのだろうか。守りの要にして不動のレギュラーだけに、不在は痛い。

 しかし、イングランドに対する本質的な不安はそういうことではない。その根本的な問題は、代表選手のほとんどが消耗の激しいプレミアリーグでプレーしているということにある。

 一言で、その不安点を記すなら「プレミア症候群」。イングランド1部リーグの戦いで、身も心も燃え尽きてしまうことだ。

 今回の招集メンバーを見ても、国外でプレーする選手は右サイドバックのDFキーラン・トリッピアー(アトレティコ・マドリード)、MFジュード・ベリンガム(ドルトムント)、MFジェイドン・サンチョ(ドルトムント)のわずか3人だけ。それ以外の23人が、世界で最もフィジカルな真剣勝負を強いられるプレミアでプレーする。

 しかも今季は新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れ、昨年から導入されたウインターブレークもなし。肉体的にもきついのに、クラブ間のライバル意識は強く、しかも激しく、精神的な消耗も大きい。

 それは2017年に、2000年代の黄金世代と呼ばれたイングランド代表の中心選手だったスティーブン・ジェラード、フランク・ランパード、リオ・ファーディナンドの3人が「BTスポーツ」に出演して、当時の正直な気持ちを明かした話を聞けば明らかだ。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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