「ミスを恐れる」日本の選手たち ストイコビッチは16歳の頃から「自信満々だった」

私立相生学院高校サッカー部で指導をするズドラブコ・ゼムノビッチ監督【写真:相生学院高校サッカー部】
私立相生学院高校サッカー部で指導をするズドラブコ・ゼムノビッチ監督【写真:相生学院高校サッカー部】

高校年代では勝利至上ではなく育成優先の指導を強調

 清水の監督時代に、ゼロックス・スーパーカップで戸田和幸をボランチに挑戦させたくて説得した。

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「何より本人が納得しないと意味がない。でも戸田は自分の適性がセンターバック(CB)だと思っていて、責任を負うのが怖いと話していた。だから私はみんなに宣言しました。『すべては私の責任。もし文句があれば、私に言ってくれ』とね。指導者は選手の心のブレーキを外してあげなければならない。結局戸田はビスマルク(元鹿島アントラーズ/元ブラジル代表)を抑え込み、3-0で完勝の立役者になりました」

 その後、戸田がボランチとして日本代表にも定着していくのは周知の通りだ。

「日本では中学くらいから先輩後輩の関係ができて、先生(監督)の言うことも含めて上からの指示は『ハイ、ハイ』と聞き、その通りにやるのが当然だと思って育ってくる。さらに一発勝負が多いから、失敗して『おまえのせいだ』と言われると、なかなか次に取り返す機会がない。もし高校生が夏頃の選手権予選に負けてしまえば、次のチャンスは翌年になる。欧州では、ミスをして『おまえのせいだ』と言われても、『ふざけるな、次はやってやる』と誰でも言い返しますよ」

 サッカーに限らずスポーツ選手の育成には、ノックアウト方式優先と上意下達という日本特有の文化との相性が悪い。育成年代から大会の結果でチームを評価されると、どうしても短絡的に勝利を追い求める指導者が増え、先生(監督)の意のままに動かないと生徒(選手)はメンバーから外されるリスクを負う。

 だからこそゼムノビッチ氏は、敢えてチームの勝利至上ではなく育成優先を強調する。

「チームで結果を出しても、選手たちが次にプロや大学へ進んで活躍できなければ、本人も親も幸福とは言えない。逆に良い選手たちが育っていけば、自然とチームも強くなりますよ」

 指導者として豊富な経験があるから、開花を急がず未来の大輪を描いている。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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