松田直樹の「熱い闘志」は今も胸に 自動車業界で奮闘、元Jリーガーが秘める思い
【元プロサッカー選手の転身録】天野貴史(元横浜FMほか)後編:恩師の言葉を胸に自動車業界でトップ営業担当を目指す元Jリーガー
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世界屈指の人気スポーツであるサッカーでプロまでたどり着く人間はほんのひと握り。その弱肉強食の世界で誰もが羨む成功を手にする者もいれば、早々とスパイクを脱ぐ者もいる。サッカーに人生をかけ、懸命に戦い続けた彼らは引退後に何を思うのか。「Football ZONE web」では元プロサッカー選手たちに焦点を当て、その第2の人生を追った。
今回の「転身録」はかつて横浜F・マリノスなどに所属した天野貴史。横浜の下部組織時代は年代別代表にも選ばれ、トップチームでは中村俊輔(現・横浜FC)や松田直樹、中澤佑二ら日本代表選手たちともプレーした。その後、ジェフユナイテッド千葉、AC長野パルセイロを経て2017年のプレーを最後に引退を決意。その後はピッチから離れ、自動車業界の営業職という道を選択した。チームメートやファンから愛された、かつてのムードメーカーは今、日本一の営業担当を目指している。後編は引退後の生活をお届けする。(取材・文=藤井雅彦)
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現役を退いた天野貴史がセカンドキャリアとして選んだ仕事は『車屋さん』だった。
自動車販売(新車・中古車)、自動車の修理・車検、各種保険業務といった車に関するすべてを担う。正式な名称がないため職業を聞かれた時に「親しみを感じてもらえるように」という思いも込めて、そう答えているのだという。
Jリーガーの多くは引退後もサッカー関連の仕事に就くことが多い。最もポピュラーで受け皿が広いのは指導者で、最近では活躍の場をグラウンド以外にも広げて強化部や広報としてクラブスタッフになることも珍しくない。タレント活動や解説者になれるのは輝かしい実績を残したほんのひと握りの選手だ。
天野にアカデミーやスクールといった部門の指導者として声がかからなかったわけではない。その道を選ばなかったことには彼なりの考えがあった。
「指導者になることをまったく考えていなかったわけではないですし、ありがたいことにそういったお誘いもいただきました。僕自身、2015年に指導者ライセンスのC級を取得して、漠然と『いつか自分も指導者になるのかな』と想像した時期もありました。でも引退した瞬間、新たな世界に足を踏み入れてみたいという気持ちの自分がいました。サッカー以外の仕事でもサッカーのおかげで学べたこと、築けた人脈を生かせると思ったんです」
引退を決断する以前から、現在勤めている株式会社INTEREST(インテレスト)の社長である堀田洋治さんから連絡をもらっていた。堀田さんは天野がプロ1年目の19歳の時に初めて自動車を購入した際の担当者で、以降も定期的に連絡を取り合う関係になっていた。
そして2017年シーズンを最後にAC長野パルセイロを契約満了となり、年を越して1月に入った頃にセカンドキャリアの一つとして会社への誘いを受けた。
藤井雅彦
ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。