「あの空気は二度と経験できない」 李漢宰が語る2005年W杯予選、ジーコジャパンとの死闘

北朝鮮代表はDF南成哲(16番)のゴールで一時同点に追いつく【写真:Getty Images】
北朝鮮代表はDF南成哲(16番)のゴールで一時同点に追いつく【写真:Getty Images】

大黒の劇的決勝弾を食らって惜敗、途中交代の李漢宰は無念の涙「唯一の後悔」

「海外組の合流時期とかもあって、全員が揃った本当の意味での“最強”の日本代表と僕は戦ったことはありません。ただ、国内組にも小笠原(満男)さん、遠藤(保仁)さん、福西(崇史)さんがいたり、メンバー的には誰が出ても遜色がない高いレベルでした。よくそのチームと戦ったな、と。僕は幼い頃から『日本代表に勝利し、ワールドカップに出る』と夢を掲げてきました。あの試合も、自分たちが勝つためにはどうするかを常に考えていましたし、キャリアで一番と言ってもいいくらい大きな出来事だったと思います」

 試合は前半4分、ゴール約20メートルの位置から小笠原が直接FKをゴール左隅に決めて日本が先制。5万9399人が入った埼玉スタジアムは、割れんばかりの歓声に包まれた。北朝鮮は後半16分にDF南成哲の強烈なミドル弾で同点に追いつくが、「互角以上に戦えている」という実感があったと李漢宰は明かす。

「先に小笠原さんにFKを決められた時は、『やはり日本代表は強いな』と感じました。ただ、その後の展開を含めて、1点を取れれば勝利も見えてくるなという感覚でピッチには立っていました。アウェーはアウェーですけど、僕や安英学さんからすれば、試合をしたことのある埼玉スタジアム、しかも在日の方々が1万人くらいスタジアムに足を運んで、ホームなんじゃないかというくらいの雰囲気を作ってくださいました。あのような普段と異なる空気はもう二度と経験することはできないと思うので、応援してくださった方には本当に感謝しています」

 最終的に、後半アディショナルタイムに途中出場したFW大黒将志に代表初得点となる値千金の決勝ゴールをねじ込まれ、北朝鮮は1-2で敗北。後半39分にピッチをあとにしていた李漢宰は、途中交代後から涙が止まらなかったという。

「海南島(の合宿)で筋肉を痛めてしまって、ほとんどフルで練習をできないままでした。持っている以上の力を出せたと思いますが、強度の高いメニューができなかったゆえに足がつってしまった。本当の意味で100%の状態で試合に挑めなかったのが、唯一の後悔です。大黒さんのゴールが決まる前から、僕はずっと泣いていました。この試合のためにここまでやってきたのに、そのピッチに最後まで立てなかった悔しさと無念さで。そのなかであの失点ですから、悔しさを通り越して悲しいというか、言葉で表せないくらいの感情が込み上げてきました。

 その後のロッカールームでもずっと泣いていて、先輩方に『大丈夫だ』『漢宰、まだ次があるじゃないか』と声をかけていただきました。ただ、それでもなかなか切り替えられず、敗戦は自分のせいだと感じるくらいショックを受けました。『日本代表に勝利し、ワールドカップに出る』という夢の一歩手前まで行けたことは非常に幸せに思いますが、ワールドカップ予選だけで言えば、(日本に対して2敗と)一度も自分の夢を叶えられなかったのは残念でした」

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