“Jリーグ王者”川崎への敬意と今季3度目の挑戦 「闘えない」清水の姿はそこになかった

ここまでミスが多い川崎は近年見たことがなかった

 後半も攻め込まれる時間帯はあったが、GK大久保択生のビッグセーブやこの試合のテーマの一つであった「粘り強いしつこい守備」で失点までには至らなかった。しかし、さすがは王者川崎。後半44分にここまで粘っていた清水の守備の壁を崩し2-2の同点とされ試合は終了、5年ぶりの勝利とはならなかった。

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 ただ、ここまでミスが多い川崎は近年見たことがなかったが、それも清水の狙いを持ったプレッシャーを受けてのものだろう。川崎相手に、これまではそのプレッシャーすらかけることができない試合内容だったことを考えれば、ピッチ内での選手の迷いがなくなり、やるべきことが整理されていると感じられた。コロナ禍の中、「降格がないから」と下位クラブ、チーム、選手の甘えが川崎の独走を許したという考えもあるようだが、そのチャンピオンチームに対して17位のチームがこれだけの戦いができたのは、これまでの積み重ねがあったからではないだろうか。

 前日会見で、この試合でも一度は勝ち越しのゴールを決めたヘナトは、「監督が交代してから積極性が出ているが?」という質問に対して「そうは思わない。前監督のサッカーに平岡監督の考えを加えてチームが良くなっている」と言い切った。もちろん、選手自身が自分たちのプレーの不甲斐なさを感じてのシーズンとなったことは間違いないが、清水エスパルスというクラブが今シーズンでなくなるわけではない。勝ち点1でも奪う現実的なサッカーも必要だが、長い歴史の中の1年だと考えれば今シーズンの経験は無駄にはならないし、決して無駄にしてはいけない。

 試合前には川崎のリーグ戦優勝を祝し、清水の選手が花道を作って拍手でピッチに迎え入れた。「ガード・オブ・オナー」というもので欧州リーグでは昔から行われているものだが、歴史の浅いJリーグでは今回が初めての試みだったという。たまたま前節に優勝が決まり、次の対戦相手となっただけの清水だったが、難しい苦しいシーズンを一緒に精一杯戦ってきた仲間の栄誉を素直に称えることができるクラブ、チーム、選手、そしてサポーターは素晴らしいと感じ、またさらに試合内容もそれに相応しいものになった。

 誰もが認める今シーズンの強い川崎に試合終了間際までリードすることなど、清水サポーター以外は誰も思っていなかっただろう。長年にわたり清水エスパルスを取材させてもらっている者として、いつかは清水が「ガード・オブ・オナー」で迎え入れられる日が来ることを夢見られる試合となった。

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下舘浩久

しもだて・ひろひさ/1964年、静岡市(旧清水市)生まれ。地元一般企業に就職、総務人事部門で勤務後、ウエブサイト「Sの極み」(清水エスパルス応援メディア)創設者の大場健司氏の急逝に伴い、2010年にフリーランスに転身。サイトを引き継ぎ、クラブに密着して選手の生の声を届けている。

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