“ゴールへの道”を見つける鎌田の秀逸なセンス 独トップクラスのアシスト技術で評価上昇

鎌田の才能を伸ばすヒュッター監督の辛抱強い起用法

 このようなラストパスは、GKにとって止めることが非常に難しい。同節のシュツットガルト対バイエルン戦(1-3)でも、似たような形からバイエルンGKマヌエル・ノイアーが失点していたが、守備ライン裏のスペースへ浅い角度からゴール前を斜めに横切ってくるようなパスに対しては、GKは飛び出すタイミングとコース取りが合わせにくい。飛び出さないとフリーでシュートを許してしまうが、サイドから来て、自分から遠ざかっていくようなボールに対してとなると、どこへ飛び出すかは瞬時に判断しづらいのだ。

 2点目のアシストは、また違うタイプのものだ。シルバからのヘディングパスを相手陣内の右サイドで前を向いて受けると、そのままスピードに乗った状態でドリブルで運んでいく。相手がボールにアタックできないように巧みに距離を取りながら前へと運び、一つフェイントを入れて前に持ち出した直後にゴール前へパス。一つひとつボールに触るリズムを変えているので、相手DFは足を出すこともできない。

 こうして鎌田が好プレーを披露し続けている要因の一つに、アディ・ヒュッター監督の辛抱強い起用法が挙げられる。

「私は悪いプレーをしたからといって、すぐにその選手を放り出すような監督ではない。最低でも2、3回はチャンスを与える。そうすることで選手に自分の信頼を感じ取ってもらうことができる。そうしないと、ミスが選手をさらに不安にさせてしまうかもしれない。それにもし、そうやって選手をすぐ入れ替えたことで、新しく起用される選手まで『もし、この試合でミスをしたら次のチャンスはないかもしれない』と不安を感じてしまったら、私は同時に2人の不安定な選手を抱えることになってしまう」

 5日のドルトムント戦を前に行われた記者会見でそのように語っていたが、確かにこうした手腕でヒュッター監督は主力選手を育て上げてきたのだ。

 鎌田もそうだ。昨シーズンからレギュラーとして、そして今季は主軸として絶大な信頼を得ているとはいえ、毎試合トップパフォーマンスを残してきたわけではない。リズムやタイミングが合わずに、ミスのほうが多かった試合だってある。それでもヒュッター監督は、どんな時も鎌田への信頼を崩さなかった。それが日本代表MFを常に前向きな気持ちにさせ、課題を改善しようと取り組み、次の試合では確かなパフォーマンスでチームに貢献してきたからこそ、今がある。

 ヒュッター監督は前節に向けた記者会見では、現在ウニオンで大活躍中のFWマックス・クルーゼ獲得の考えがあったことを明かした後に、それでも獲得には動かなかった理由について次のように語っていた。

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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