“川崎の太陽”ジュニーニョ、引退発表の中村憲剛に贈るメッセージ 「手助けできたのなら本当に幸せ」

「ケンゴがあれほどの選手になるうえで、手助けできたとすればその20%ぐらい(笑)」

 フロンターレでの2年目、中村が攻撃的MFからボランチに移り、プレーに迷いが生じていたことも、ジュニーニョのアドバイスに拍車をかけた。

「彼に伝えようとしていたのは、スペースを使うことだ。そして、『前を見ろ』と。ボールはいつだって、前に出すものだ。それに、僕は持ち前のスピードで、素早く前に出たいんだ、と。

『中盤でプレーしているのだから、ボールを持て、持ったらすぐに縦パスを出せ。タイミングを逃すな。逃せば、僕はオフサイドになってしまう。もしくは、相手の守備の態勢が整ってしまったり、カウンターアタックのチャンスを与えてしまう』

 ケンゴの理解は早かったよ。経験豊富な選手のアドバイスに耳を傾ける姿勢があったし、聞いたことにトライしてミスすることを恐れなかった。そして、何よりインテリジェンスのある選手だからね」

 中村は今に至るまで、インタビューなどの機会によく語っている。「もしジュニーニョがいなかったら、今の僕は存在しなかった」と。それを伝えると、ジュニーニョは一瞬、絶句した。

「……そうか。すごく強い言葉だ。鳥肌が立つよ。ケンゴはフロンターレの、そして日本サッカーの素晴らしい歴史を築いた選手。その彼を手助けできたのなら、本当に幸せだし、名誉に思う。それに、彼の人間性も感じられるのが嬉しいよね。彼がそういうことを言うのは、彼自身が謙虚で、人への感謝の気持ちを忘れない人間だからだよ。彼があれほどの選手になるうえで、僕が手助けできたとすれば、その20%ぐらいじゃないかな。ハハハ(笑)。多く見積もり過ぎだな。実際は、彼のクオリティーそのものが、あの成功をもたらしたんだよ」

 その中村は40歳となった翌日の11月1日、今季限りで川崎一筋18年のキャリアにピリオドを打ち、現役を引退することを発表した。

「残念だよね。ケンゴがもうプレーしないなんて。僕ら選手は誰でも、自分のコンディションは、自分が一番よく分かっているもの。ケンゴの場合、人から見れば、今もとても良いプレーをしているし、この先も、そのコンディションを十分に維持できるはずなんだけど、彼自身にとってのコンディションは、ここで終わりにする、というものなんだろう」

 過去に多くを要求した戦友に、ジュニーニョは今、もう一度要求することがある。

「その選手としての人生を、タイトルで締めくくることだね。これだけの経歴を築いて、最後のシーズンにタイトルを獲れないなんてことになったら、引退宣言は撤回しなきゃ(笑)。だから、もう一つ、タイトルを獲ること。それができなければ、もう1年、プレーしてもらおう(笑)」

藤原清美

ふじわら・きよみ/2001年にリオデジャネイロへ拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特に、サッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のテレビ・執筆などで活躍している。ワールドカップ6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTubeチャンネル『Planeta Kiyomi』も運営中。

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