涙のクロップと選手の厚き信頼 リバプールの“独走”優勝を生んだ「ミスを肯定する」哲学

筆者が痺れた一言、サッカーとは「ミスを取り戻そうと必死になる時間が圧倒的に長い」

 それでは選手にきついサッカーをやらせて結果を出すクロップの源には、何があるのか。そこに迫ってみよう。

 まず明らかなのが、試合中のタッチライン上でも見せる、火の玉のような情熱だ。

 その情熱で選手を鍛えに鍛え、編み出した怒涛のようなゲーゲンプレス戦法を自ら「ヘビーメタル・フットボール」と呼び、90分間激しく戦い抜くサッカーを顕在化した。結局、それがクロップの見たいサッカーなのだ。

 それがクロップ自身が見て、血湧き肉躍るサッカーであり、人生のすべてを捧げて追求したいサッカーなのである。

 またその原型には、我々がこれまでのワールドカップ(W杯)で何度も目撃し、驚愕したクロップの母国ドイツ代表のサッカーがあるのではないだろうか。いわゆる「ゲルマン魂」のサッカーである。

 ドイツ人闘将の心象風景には、母国の栄光を支える不撓不屈のサッカーがあるはずだ。そしてその決して諦めない心が、クロップの情熱を燃やし続ける原料なのではないだろうか。

 さらにクロップには、その永遠に燃え続ける情熱を支える確固たる哲学もある。

 その哲学に触れたのは、昨年暮れに日本代表MF南野拓実のリバプール移籍が決まり、定例会見で直接尋ねた質問がきっかけだった。

 筆者はシーズンの折り返し地点で、鬼神の強さを見せつけ、プレミアを完全に独走していたリバプールについて「あなたが描く完璧なサッカーを実現しているチームではないのか?」と聞いた。するとクロップは、質問の中に含まれていた“パーフェクト”という言葉に鋭く反応した。

「完璧なサッカーというものは存在しない。確かにサッカーの試合中に完璧な瞬間はある。例えばマンチェスター・シティ戦の2点目。トレント(・アレクサンダー=アーノルド)が右サイドから50ヤード(約46メートル)のサイドチェンジパスを出すと、逆サイドで受けたロボ(アンドリュー・ロバートソン)がトップスピードに乗ったまま、ポンポンと2タッチしただけで強烈なクロスを叩き込む。そのボールの先には、どこからか現れたのかさっぱり見当もつかないモー(モハメド・サラー)がいて、ワンバウンドの難しいボールにいとも簡単に頭を合わせた。あれは完璧な瞬間だった。

 しかし、そんな完璧な瞬間が90分間続くわけがない。だから私は、完璧なサッカーなどというものを思い描いたことがない。それにサッカーの試合というものは、完璧な瞬間を作ることよりも、自分の犯したミスを取り戻そうと必死になる時間のほうが圧倒的に長い。それは人間の人生にも共通するものではないだろうか」

 この言葉を聞いて、筆者は痺れた。文字通り、全身に電流が流れたような感覚だった。この言葉を聞いて今シーズン、リバプールが相手に先制されても必ず逆転する理由が、まさに頭の中で閃くように理解できた。

森 昌利

1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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