メッシも俊輔も“利き足”で磨いた別格の武器 「器用」を優先させる指導方針に疑問符

イニエスタは局面でも利き足使ってる【写真:Getty Images】
イニエスタは局面でも利き足使ってる【写真:Getty Images】

「右も左も同じように」という日本の指導方針は正しいのか

 気になるのは、育成段階での日本の指導方針だ。JFA(日本サッカー協会)はもちろん、大半のJリーグクラブのアカデミーでも「右も左も同じように」と強調している。

 奇しくも前述の遠藤や田中は、JFAアカデミー福島の出身だ。しかし世界のトップシーンを見れば、利き足で9割以上もプレーする選手が大勢を占める。最初のタッチで利き足を最も活かしやすい場所にボールを置き、それから身体をどう動かせば奪われないかが染みついている選手たちが、そこにいる。逆に、だからこそ元日本代表監督だったハビエル・アギーレ氏に象徴されるように、センターバックでも利き足にこだわって起用するケースが少なくない。

 子供たちを勝手に遊ばせておけば、おそらく9割以上利き足でプレーするのが自然な姿だ。だから特に南米では、その利き足を武器にできた選手たちがプロの世界に残っていく。ところが日本では、指導者が早い段階で「苦手克服」を命題に逆足を磨かせようとする。それは本当に有効な時間の使い方なのだろうか。

 Jリーグ開幕戦で北海道コンサドーレ札幌の菅大輝は、左サイドで再三フリーでボールを受けたが、相手のサイドバックと対面すると右で切り返し、逆足でクロスを上げた。一方、対戦相手の柏レイソルでは古賀太陽が左サイドバックでプレーしていたが、彼を最初に見た時は右サイドバックながら左足でボールを運んでいた。

 往年の名ストライカー、釜本邦茂氏は右45度という必殺コースが警戒されまくったため、新しい打開策として左を磨いた。しかし相手に警戒される武器を備える前に「器用」を優先したら、そこに何が残るだろうか。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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