良質な助っ人を「甘やかさない」中東勢の脅威 浦和の“完敗”が示す日本サッカーへの警鐘
ACL決勝でアル・ヒラルに2戦合計0-3、中国勢とは異なる高価な助っ人との関係性
AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝でアル・ヒラルが浦和を下すと、サウジアラビアの記者たちは一斉に快哉を叫んだ。また会見場には選手たちが乱入し、ラズヴァン・ルチェスク監督に水をかけ歓喜を爆発させた。アル・ヒラルのアジア制覇は19年ぶりだが、この様子を見る限り、そのまま国全体がお祭り騒ぎに転じたのは想像に難くない。
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実際アル・ヒラルの強さは、今までのアジアの常識を覆すほど突き抜けていた。サウジアラビア代表を基盤として、4人の良質な助っ人を補強。十分な戦力を整えると、「監督が相当に個性の強い選手たちを組織的に戦えるようにまとめ上げた」(MVPと得点王を獲得した元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミス)という。多少大袈裟だが「リバプールやマンチェスター・シティが実践しているサッカーと変わらない」とゴミスは胸を張った。
ACLは準決勝まで東西に分かれて争うので、Jクラブが戦う東地区では中国勢の次元の違う助っ人が注目を集めてきた。だが中国のクラブは、高価な助っ人を獲得しても依存を強めるばかりで、現状では自国選手たちの強化にはつながっていない。依然として助っ人とのレベルの乖離が著しく、上海上港の元ブラジル代表MFオスカルに象徴されるように、まったく守備には貢献しなくても許される「甘やかしの構図」が、一部でできてしまっている。
だがアル・ヒラルの場合は、もともと在籍する自国選手たちのレベルが高いので、良質な助っ人とほぼ対等に連係できている。最前線のゴミスが相手GKまでボールを追いかけまわせば、元イタリア代表MFセバスティアン・ジョビンコもフリーでフィードをしようとする浦和のDF岩波拓也の足もとに身を投げ出していく。十二分な守備への貢献を果たしたうえで、攻撃で違いを生み出していた。ここまで中国勢3チームと対戦し無敗で勝ち上がってきた浦和だが、さすがにアル・ヒラルとの力の差は歴然としていた。
一方で日本とサウジアラビアを筆頭とする中東勢との違いは、欧州進出志向にある。日本の若い選手たちは次々に欧州のクラブへ移籍し、必然的に日本代表の主力も欧州組が占めるようになった。厳しい環境で個が磨かれ、それが代表チームの強化に反映された。
だが中東勢の大半の選手たちは、自国リーグでプレーしている。あるいは今年のアジアカップを制したカタールのように、自国に先進的な育成組織を築き強化につなげている国もある。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。