「FCメッシ」になったバルセロナ 極端な“守備軽減策”とカンテラ有望株への逆風

バジャドリード戦でメッシと抱き合うビダル【写真:Getty Images】
バジャドリード戦でメッシと抱き合うビダル【写真:Getty Images】

メッシの“守備軽減”へ、極端なほど周囲が気を遣っている

 メッシがプレーエリアを下げたことで生まれる前線の空白には、ビダルが後方から走り込んでいた。メッシからのパスを見事なワンタッチシュートで得点も決めている。30メートルのスプリントを繰り返せるビダルのバイタリティー、スペースに飛び込むセンスと空中戦やボレーで無理の利く身体能力が発揮されていた。

 一方、メッシの守備軽減に関しては極端なぐらい周囲が気を遣っている。

 右サイドを守らなければならない場面ではビダルが2人分をこなすか、足りない時はセンターフォワードのスアレスが右へ流れて守っていた。メッシは我関せず。スアレスはわざわざポジションを入れ替えてまでメッシのために守り、ビダルは前線に飛び出した後でも平気な顔で戻ってくる。メッシは一番負担の軽い場所を選んで移動する。

 メッシは守備意識の低い選手ではない。本気で奪いに行った時の守備力は相当なものだ。決して守れない選手ではないのだが、チームの方針としてメッシには守らせない。形は違えども、これまでもほぼそうしてきた。今季は極端な気もするが、メッシの年齢(32歳)を考えれば従来以上に負担を軽減したほうがいいのだろう。

 おそらく、これでバルサの戦闘態勢は整ったと思う。ただ、メッシとビダルがセットになればインテリオールの席は一つ埋まってしまうので、残り一つをデ・ヨング、アルトゥール、イバン・ラキティッチが争うことになり、カンテラ(下部組織)出身の有望株だったカルレス・アレーニャには移籍の噂が出てきている。実現すれば、カンテラーノ(下部組織出身者)はまたチームに残れない。

 戦い方はメッシ仕様に特化し、育てたカンテラーノは定着できず……。今はそれでもいいとしても、メッシ引退後のリバウンドが心配になるぐらい、バルサは「FCメッシ化」してしまった。避けられないこととはいえ、一蓮托生の度合いはこれまで以上になっている。

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(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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