才能ある選手に課す「善意のハラスメント」 指導者に問われる「諦め」との境界線

選手が忠告に耳を貸さないなら…そこで見捨てるしかない

 別の指導者は「才能ある選手とは戦わなければならない」と言っていた。才能のある選手ほど「高い要求をすべきだ」と。そこで甘やかしてしまえば、プロになった時に本人が困ることになるからだ。前記のケースはまさにこれなのだが、一方で「高い要求をした結果、その選手がサッカーを辞めてしまっても構わない」とも話していた。しかし実際、それで選手が辞めてしまったら、おそらくハラスメントということになるのだろう。

 指導者として優れているのは、たぶん後者のほうだ。選手の将来を見越して、必要な要求をする。それが結局は本人のためにもなる。たとえ、その時は理解できなくても。一方、そのために選手が精神的身体的な苦痛を感じてサッカーを辞めてしまったとすれば、ハラスメントに該当する。

 そうなると、現状で指導者にできるのはアドバイスにとどまる。仮に選手が忠告に耳を貸さないなら、ある意味もうそこで見捨てるしかない。才能の損失にはなるかもしれないが、やむをえない。馬を水辺へ連れて行くところまで――。首をひっつかんで水を飲ませることはできないし、やってはいけない。プロチームの下部組織の指導者として、才能を無駄にするのはよろしくないが、それ以上に広い意味での人権のほうが優先となる。

 諦めることが問われているのではないか。選手にその気がないなら諦める、それ以上はコミットしない。よりドライな関係に移行していくのではないだろうか。

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(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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