欧州王者リバプール、崩壊から再生への「3年7カ月」 闘将クロップが変えたものとは?

CL決勝で鉄壁の守備を誇ったDFファン・ダイク【写真:Getty Images】
CL決勝で鉄壁の守備を誇ったDFファン・ダイク【写真:Getty Images】

シーズンを重ねるごとに最大の弱点だった守備が大幅に改善

 確かに年が明けた1月に、中盤で高い決定力を示していたフィリペ・コウチーニョが、スアレスの後を追うようにバルセロナへ移籍した。しかし小さなフラジル人MFの不在をあっけなく埋めたのが、オランダのエレガントな巨漢DFフィルジル・ファン・ダイクだった。

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 結局このシーズンの終盤、懸念されたほどコウチーニョの不在はチームにダメージを与えなかった。それどころか、サラーが32ゴールを決めてスアレスを越え、単独となるプレミアのシーズン最多得点記録を樹立。さらにスティーブン・ジェラードに憧れ、子供の頃から好きだったリバプールにアーセナルから移籍してきたチェンバレンが闘志あふれるプレーでブラジル代表MFの穴を見事に埋めると、コウチーニョを恋しがるサポーターは皆無となった。

 しかしそれ以前に、クロップの厳しいトレーニングに2年間耐え続けた選手たちが、怒涛のようなゲーゲンプレスを体得しながら、シーズンを通してバテない体力を身につけたのが大きかった。こうしてクロップを満足させるほどフィットネスレベルを上げたイレブンが組織的に激しいプレスをかけ、高い位置でボールを奪うとそこから凄まじい決定力のショートカウンターを次々に繰り出すチームへと変貌すると、一選手の穴はさほどでもなく、リバプールのパフォーマンスが劣化することはなかった。

 逆を言えば、ピッチ上にいるイレブン全員が頑張らないと、あのスタイルは実現しないのである。どこかのワンマンチームには無理な相談なのだ。

 こうしてリバプールはチーム・パフォーマンスのレベルを飛躍的に上げ、「これがクロップのサッカーだ」と言うべきオリジナルなスタイルを見せ始めたが、このシーズン、プレミアでは優勝経験も豊富でジョゼップ・グアルディオラの戦略に慣れたマンチェスター・シティが勝ち点100を記録する驚異的な優勝を果たした。

 そんなシティが独走する展開で、プレミア優勝が明らかに不可能になった4月、クロップはCLを優先する選手起用を選択した。それが功を奏し、準々決勝でシティに対しホームで3-0、アウェーで2-1と2連勝を飾ると、バルセロナを相手に奇跡的な逆転劇を演じて準決勝進出を果たしたローマを一蹴して、決勝に駒を進めた。

 ただ昨年のCL決勝は、ラモスの狡猾なラフプレーでサラーが左肩を負傷して前半31分で途中交代。エースを失ったうえに、GKカリウスの悲劇的なミスが2回も続いてしまえば、1-3という完敗も仕方がなかった。

 しかし、結果的にこの涙の敗戦がリバプールの最後のピースを埋めさせることになった。

 クロップは自身6回連続となった決勝戦での敗北を味わった直後の昨夏、エムレ・ジャン、ジョン・フラナガン、ダニー・ウォードらを放出。そしてナビ・ケイタ、ファビーニョ、ジェルダン・シャキリと、ついに大物GKアリソンを獲得し、最大の課題だった守護神の補強を成功させた。

 さらにアカデミーからトップチームに上り詰めた生え抜きのトレント・アレクサンダー=アーノルドが頭角を現し、この1年前に加入したロバートソンとクロップ初年度の補強だったマティップに、18年1月加入のファン・ダイクを加えて最強の最終ラインが完成した。こうしてロジャース時代からリバプールの最大の泣きどころだった守備が、大幅に改善されたのである。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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