急成長する“欧州視点”で見た「女子サッカーの未来」 現地を知る日本人指導者の提言

独自路線を進みすぎると生じてしまう他国との“隔たり”

 では、なでしこジャパンは、日本女子サッカーは世界からどのように見られているのだろうか。日本には日本の持ち味がある。小刻みなパスワーク、複数選手が絡み合ってのコンビネーション、組織的な戦い方――。それらは世界的にも高く評価されている。

 だが、そのサッカーがあまりに独自路線を進みすぎていると隔たりが生じてしまう。モラスはヨーロッパにおける女子サッカーの良好な交流について、次のように語ってくれた。

「オーストリアサッカー協会の女子の関係者みんなで、ノルウェーとかオランダに行って合同勉強会みたいなのを行うことがあります。スカウティングについて、育成についてなど、ノルウェーではこういうことをしています、オーストリアではこうやっていますみたいな知識と経験の交流をするわけです。交流があるからお互いに発展ができる。そして交流のためには、上手く比較できる共通言語が大切になります。例えばドイツ女子ブンデスリーガの試合を見るとオーストリア、スイス、フランス、イタリアとの共通点もいろいろあるし、比較できるところもいろいろあるんですね」

 日本の女子サッカーは、どこまでそうした交流ができているだろうか。どちらのサッカーが上とか、そういう話ではない。ただサッカーの話をする時に、共通言語で語れたほうがお互いにとってプラスになるし、密な意見交換・交流を繰り返すことでどちらも大きく発展していくことができるはずだ。

 日本でも一部の熱心な指導者やクラブが、積極的に交流をしているところもあるだろう。だが、全体的な動きとしてみたら、もっともっとできるのではないだろうか。

 W杯は世界のサッカーを間近に感じられるまたとない機会だ。だからこそ、関係者もファンもなでしこの結果だけではなく、日本女子全体がどうすればもっといい環境で、もっと多くの選手が、もっと無理のない形でサッカーに携われて、楽しむことができるかを考えてほしいとモラスは願っている。

 女子サッカーの育成環境はどうだろうか。日本では中学生になった途端、部活もなく、クラブもなく、サッカーをやめなければならないことがあまりに当たり前すぎる。では世界では、どんな取り組みが行われているのだろうか。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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