【歴代W杯初戦の教訓】日本“最強世代”が散った「ラスト6分の悲劇」 豪州の圧力に屈する

選手交代の意図が伝わらずチームが混乱

 裏返せば、戦術的に手探りの状態でも、選手たちはそれなりの結果を出していた。そしてW杯開催国に乗り込み、大会直前に行ったドイツとの親善試合では、高原直泰が2ゴールを決めるなど最高級のパフォーマンスを見せた。

 一方、開幕戦の相手オーストラリアも、欧州のトップリーグで実績を築いた歴代最高のタレントを揃えていた。さらに本大会4カ月前には、8年前に母国オランダ、さらに4年前は開催国の韓国と、2大会連続でベスト4に導いたフース・ヒディンクとの契約に成功していた。

 酷暑に見舞われたカイザースラウテルンで、日本のゲームの入り方は悪くなかった。オーストラリアの直線的な攻撃に対し、中田英、中村を経由した多彩な展開で崩しにかかり、幸運な先制ゴールが生まれる。中村がゴール前にロビングを上げると、柳沢敦、高原が相次いでGKと接触し、ボールは誰にも触れずにゴールネットを揺すった。ヒディンクを筆頭に、オーストラリアの選手たちも血相を変えて猛抗議をした。

 だが日本にとって幸運なゴールは、それまでの流れを断ち切る結果となった。オーストラリアは後半に入ると、ティム・ケーヒル、ジョシュア・ケネディ、ジョン・アロイージと次々にアタッカーを送り出し、パワープレーを強める。それに対し日本ベンチは、1点のリードを保った終盤にFW柳沢をMF小野伸二に代えるが、ピッチ上には意図が伝わらず混乱した。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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