韓国で浮上した「性接待問題」 日本審判員にも波及…晴れぬ名誉「悪魔の証明」

韓国で審判員に浮上した疑惑(写真はイメージ)【写真:高橋学】
韓国で審判員に浮上した疑惑(写真はイメージ)【写真:高橋学】

大韓サッカー協会が「性接待」を含む費用を法人カードで支払っていた

 韓国のテレビ局が大韓サッカー協会(KFA)の不適切な支出について報道したのが8月初旬のことだった。2011年から2012年にかけて韓国を訪問した外国人審判員やサッカー関係者に対して、KFAは「性接待」を含む費用を法人カードで支払っていたというものだった。

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 報道のすぐあとにKFAは公式サイトで謝罪文を公開した。当時、KFAは韓国代表監督の選任方法について厳しい追及を受けていた。だが実は謝罪文は組織体制についての謝罪がメインで、カード利用についての部分は「内部構成員の多くさえも十分に知らなかった十数年前の出来事に関する報道」「協会は現在、このような不適切な行為やカードの使用が決して発生していない」としか触れていない。

 また、8月19日には「売春あっせん容疑は公訴時効が過ぎた」という見解を明らかにした。アジアサッカー連盟(AFC)と国際サッカー連盟(FIFA)はKFAに対して公式の書面を送ったが、それはKFA会長選挙に加え、政府主導の「K-サッカー革新委員会」に向けられたものだったという。

 現状を考えると、少人数しか知らなかった14〜15年前のKFA法人カードの利用について、誰が接待に連れて行かれたかという情報が追加で出てくることは難しそうだ。たとえ名前が出てきたにしても、本当に本人だったかというのは写真でも残っていない限り特定できない。

 ただし、この問題は韓国内で終わっていない。この期間に韓国での試合を担当した審判員たちに対しても疑惑の目が向けられることになった。その中には日本の審判員たちも含まれる。

 日本サッカー協会は同期間に渡韓した審判員7人を聞き取り及び書面で調査し、湯川和之専務理事が「事実は確認できなかった」「本件に関しての調査はこれで終えようと思っている」と8月20日に発表した。また9月9日には扇谷健司審判委員長も「理事会後の説明が全てで、全て終わっていると判断しています。私の立場から追加でお答えできることはありません」と、この件に関してはすでに終結したとコメントしている。

 今回、匿名を条件に元国際審判員に、実際に「性接待」が起こりうるのかを聞いた。食事ならばありうるとしつつも、その他の接待はあり得ないという。

 大きな理由は、審判は常に八百長に対して神経をとがらせているため。相手に弱味を握られないように気を付けて行動しているので、不適切な接待を持ちかけられても応じることはないという。

 別の国際審判員から聞いた話によれば、昨今の八百長の手口は巧妙化しており、例えば「明日はAチームに先にイエローカードを出してほしい」といった些細な要求から始まることがあるそうだ。一度でもその誘いに乗ってしまうと、買収の現場を録画され、以後は言いなりに動かざるを得なくなってしまう。

 また、各国サッカー協会がワールドカップのような大きな大会に審判員を送り出すことを目標にしていることも忘れてはならないということだった。接待を持ちかけられたほうが自国の協会にその事実を報告すれば、相手の国の審判員は確実に国際大会へのエントリーの道を断たれる。ライバル関係にある中で、自らそのような危険を冒すとは考えにくい、と前述の元国際審判員は語った。

 この件について韓国のジャーナリストとも意見交換をした。彼が指摘したのは、「日本の審判団の一部だけが接待を受けた」という疑惑の構造についてである。「先輩後輩の関係が厳しくて、先輩が後輩の口止めをしていれば漏れないのだろうが、そういうことはあるのか?」と質問されたが、これまでプロフェッショナルレフェリーの合宿を取材した限りでは、日本風のかなりフラットな関係に見えている。

 こうなってくると、事態はいわゆる「悪魔の証明」の領域に入ってくる。「ある」ことは証拠を一つ見つければ証明できるが、「ない」ことを証明するにはすべての可能性を調べ尽くさねばならず、極めて困難だ。10年以上前の一夜の出来事が「なかった」と明確に証明するのは、とことん難しい作業になるはずだ。

 日本に続いて中国サッカー協会も調査を終結した。現時点では各国ともこれ以上何もできないだろう。もしかしたら、このままこの話は進展しない可能性も高い。

 そうなると、この件で名前を挙げられた審判員たちの名誉はいつ回復されるのだろうか。根拠のない疑惑によって、彼らが不利益を被らないことを祈るばかりだ。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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