学校行事となった「とても幸せなこと」 平日正午のフットサル公式戦…今節最多を記録した「奇跡的」な舞台裏

平日正午開催のFリーグ公式戦に詰めかけた1406人
森保ジャパンがFIFA北中米ワールドカップ(W杯)でチュニジア代表に4-0と快勝した翌日の6月22日、アリーナ立川立飛ではFリーグ・ディビジョン1第4節の立川アスレティックFCとボアルース長野の一戦が行われた。キックオフ時間は12:00。全国リーグの公式戦を平日の正午に設定するという、興行としては無謀とも言える時間設定だったが、会場はサッカーのW杯の熱狂を受け継いだかのように盛り上がった。
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この日、アリーナ立川立飛に集まった観客は1406人。この数字は19日(金)から21日(日)にかけて行われた他のFリーグ・ディビジョン1第4節の5試合と比較しても最多であり、平日の昼間の試合としては驚異的な数字だ。
今回、これだけの観客を集めることができた背景には、しっかりした理由がある。普段から立川の試合は子供の観戦者が多いが、この日の観客は8割以上が小学生だった。実はこの試合は「アスレ全校応援プロジェクトsupported by メットライフ生命」と銘打たれており、立川市立第八小学校と立川市立若葉台小学校というホームタウンである立川市の2つの小学校の全児童が、学校行事として試合を観戦していたのだ。
メットライフ生命は2年前からFリーグのタイトルスポンサーを務めており、昨シーズンはリーグを盛り上げることに注力していた。そして2シーズン目の2026-27シーズンは、よりクラブとの活動に注力していくという。昨年、メットライフ生命はFリーグ・ディビジョン1、Fリーグ・ディビジョン2、さらに女子Fリーグの全32クラブに企画を募集したところ、20以上のクラブから案が上がり、そのうちの1つが、この「アスレ全校応援プロジェクト」だった。
昨シーズン限りで現役選手を退き、現在は立川の代表理事として奔走している元フットサル日本代表FP皆本晃氏は、「明確な時期は忘れましたが、昨年、メットライフ生命さんに『やりたいことがあれば、なんでもいいよ』と案を出してほしいと言われて、ずっと暖めていた企画を提案しました。それは学校の授業の一環として、子供たちに試合を観に来てほしかったんです。子供を集めるのは、いつもやっていること。でも、その子供たちのほとんどはサッカーをやっていたり、フットサルをしっていたりする子です。そうではなく、授業の中でみんなに来てもらう。もっと言えば、フットサルに触れたことのない子供たちを呼ぶというのが、一番の狙いでした。その意味では、今日はやりたいことをやっとできました」と喜んだ。

「2校の全校生徒に来てもらえたのはありがたかった」
まだまだ観る競技としてはマイナーなフットサルだ。多くの子供達にアリーナで試合を観てもらえたことは、大きな意味があるだろう。ただ、普段からリーグ戦に足を運んでいるファン・サポーターのなかには、この試合に足を運べなかった人がいたのも事実。それでも反対の声は、皆無に近かったと皆本氏は言う。
「うちのファンは、(平日開催でも)理解してくれると思います。僕たちのクラブの成り立ちがあって、ああいう(クラブ存続の)危機を乗り越えて、今がある。その背景を知ったうえで応援してくれている人がほとんどなので。もちろんはじめは『なんで月曜日にやるの?』という声もありました。でも、僕たちの理念に沿ったものですし、その理念にファンの人たちも共感してくれています。この企画は、その理念を叶えるためにやっていることの1つだと明らかにわかるから、理由を話したら『なんでだよ』と言う人はいませんでしたし、僕も言われるとまったく思わなかった。そこに関してはある意味、自分たちのファンに自信を持っているというか、信頼をしています。多分、うちのファン・サポーターは、『この試合を見ることができなかった』と悔しがる人より、『私の応援しているクラブ、オレの応援しているクラブ、こんなことやっているんだぜ』って、誇りに思ってもらえる。そんな企画だったんじゃないかなと思っています。だから、今後、お客さんが多少増えたとしても、毎年の恒例行事にしていくつもりです」
匿名で取材に応じてくれた立川の応援団長は「小さい子がたくさんいて、声やハリセンの音を出してくれて、いつもとは違うホームゲームの雰囲気をつくってくれました。僕らもいつもとは応援を変えて、わかりやすい応援をするようにして、それが結構うまくいったかなと思います。こうしてクラブが全校児童を招待してくれたことで、『立川にこういう誇らしいクラブがある』ということが、この2校には伝わったと思いますし、本当に良い企画だったと思います。何より今日の試合で勝ってくれたのが一番です。負けて『立川のチーム、あんまり強くないじゃん』と思われると悲しい部分もあるので、そういう意味でも良かったです。いつか今日、初めて来たという子供たちと応援できたら嬉しいです」と、自身も早退して、この意義のある1日に参加できたことを喜んだ。
今回、この企画を実施すると決まったのは今年の3月に入ってからだったという。すでに立川市内の小学校は、年間スケジュールが決まっていた。そのため声をかけた小学校のいくつかからは、断りの連絡も入っていたという。
「でも、それは当たり前ですよね。すでにカリキュラムは決まっていて、授業のコマ数も決まっている。スケジュールができあがっていたのに、そこから丸1日つぶさないといけなかったわけですから。そのなかでも『これは良い企画だから』と賛同してくれて、スケジュールを調整してくれて2校の全校児童に来てもらえたのはありがたかったですし、本当に奇跡的でした」と、皆本は感謝した。

観戦した校長「地元を好きになるのに、一番分かりやすい」
この日、全校で観戦した立川市立第八小学校の島村裕次郎校長は、約1か月前に児童たちにしおりを配り、学校行事として立川の試合を観戦しに行くことを伝えて、大いに喜ばれたという。試合日には30人くらいの子供たちが立川のユニフォームやチームシャツを着て、アリーナで配布されたタオルマフラーとハリセンを使って、地元のクラブを応援した。
「とても幸せなことですよね」と目を細めた島村校長。「勉強の話になるのですが、立川市には『立川市民科』という教科があるんです。その教科は『立川市を知る、好きになる、発信する』がモットーなんです。今日の試合観戦は、そこにつながっていきます。今日、立川アスレティックFCの試合を観て、立川を知る、好きになる、興味を持つ。これをきっかけに立川アスレティックだけでなく、立川のほかのスポーツに興味を持つ人も出るでしょうし、観光や文化に広がりを見せると思うんです。そのきっかけの1つになると思いますし、立川市にこういうプロスポーツの球団があることは、本当にありがたいです。地元を好きになるのに、一番分かりやすいですから」と、教育面でも大いに意味があると語った。
この日、初めて生でフットサルの公式戦を観戦したという島村校長も「テレビで観たことはありましたが、生で見ると全然違いますね」と言い、「来年以降も、またこうした機会があるのであれば誘っていただきたいです。子供たちもW杯を観た熱を、そのままぶつけてくれていますよ。昨日の今日ですから(笑)。こんなふうに子供たちが一体になって応援する機会なんて、あまりありません。試合前は1年生から6年生まで来ることで、低学年は集中が切れてしまうのではないかと心配したのですが、ご覧の通り、まったく心配ありませんでした」と、学校としても恒例化していきたいと期待した。
肝心の試合は、残り時間5分までは1-1とやきもきさせる展開になる。それでも、そこから一気にヒートアップして最後の5分間で両チームが3点を取り合った。立川のゴールが決まれば、スタンドは喜びを爆発させ、長野にゴールを許すと静まり返る。そんな手に汗を握る展開のなか、ホームの立川は3-2で勝利し、タイムアップの瞬間にはこの日一番の大歓声が起こって、ホームチームの勝ち点3獲得を喜び合った。
メットライフ生命の稲垣裕美チームマーケティングオフィサーは、「子供たちのエネルギーがすごかったですね。会場いっぱいに来てくれて、めちゃくちゃみなさんかわいらしくて、私たちのほうが元気をもらいました。また、長野のサポーターの方々にもたくさんいらっしゃっていただいて、本当にありがたかったですし、こういった活動はどんどんやっていきたいです。フットサルは、サッカーの裾野としても、子供の時にやると良いスポーツだと思うので、日本を強くするという意味でも、子供たちを巻き込む企画は、どんどんさせてもらえるといいなと思っています」と、このイベントに手応えを感じていた。
北中米W杯の真っただ中、平日正午に行われたフットサルの試合は、多くの子供たちの胸に響き、スポーツクラブがある意味や意義を、あらためて感じることができるイベントとなった。
(河合 拓 / Taku Kawai)















