J名将から突然の札束「すすきの行ってこい」  愛弟子が語る素顔…独特の距離感は「普通じゃない」

インタビューに応じた町田の岡村大八【写真:増田美咲】
インタビューに応じた町田の岡村大八【写真:増田美咲】

町田の岡村大八「最多得点、最多失点というのはミシャらしいなと思います」

 J1百年構想リーグEASTを3位で終えたFC町田ゼルビアで、DF岡村大八は3バックの中央として存在感を発揮した。プレーオフでは、WEST3位の名古屋グランパスとの対戦が決定。その名古屋を今季から率いるのは、父のように慕うミハイロ・ペトロヴィッチ監督だ。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大/全4回の1回目)

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「まさかなるとは思っていなかったですし、そうむこうも思っていなかったと思います。キャンプのときに空港でちょこっと『どうだ』みたいな話もしました。札幌の監督を辞めると聞いたときに素直に寂しかったですし、そこから1年の期間を経て、アップデートしたサッカーを名古屋で繰り広げていますね」

 岡村とミシャことペトロヴィッチ監督は2024年、北海道コンサドーレ札幌でJ2降格を味わう。岡村はそのオフ、町田への完全移籍を決断。主力として昨年の天皇杯優勝にも貢献した。一方のミシャは「95%キャリアを終える」と話していたが、1年の休養を経て、名古屋の監督としてJリーグの舞台へ舞い戻った。

「まあ、最多得点、最多失点というのはミシャらしいなと思います(笑)。ただ、その守備のところが崩れているのはここ2試合くらいだけなので、それを除くと、攻撃的なかなりいいサッカーをしているなというところと、半年のこのシーズンで、そこまで持っていくのはなかなかできることじゃないですね」

 昨季は残留争いに巻き込まれるなど、16位に終わっていた名古屋を立て直したミシャ。「ガラッとスタイルを変えて、それを結果に結びつけているのはミシャのすごいところなのかなと思います」と話す岡村は、「実際にピッチに立ってやってみるのが楽しみなところはありますね」と対戦を心待ちにしている。

 出会いは2020年オフ、岡村がザスパ群馬から札幌に移籍したときだ。「いくつかのチームからオファーをいただきましたけど、札幌に行く決め手になったのはミシャでした」。当時、札幌よりも規模の大きいクラブからのオファーもあったが、「そのなかでミシャのサッカーをやりたい」と移籍を決断したのだ。

 ところが札幌1年目は、そのミシャから信頼を得られず苦しんだ。21試合に出場したが、先発はわずか4試合。「残りの20試合くらいは、後半ラスト90分くらいから試合に出るのが大半だったので、特に1年目に関してはかなり悔しかったかなと思いますね」。シーズン終了まで、序列が変わることはなかった。

 ミシャがよく口にしていた言葉は、「一緒にやってきた選手を、俺は信頼する。戦場に行くとき、背後から斬られる。そんなことはされたくない」。スタメンで起用される機会が多かったのは、長く信頼関係を築いていた選手だった。

「右サイドバックの選手が負傷したところで、ディフェンスの僕が試合に出れるわけではなかったので。そういったときにボランチの選手だったり、ウイングやサイドハーフをやるような選手が右サイドバックに入ったときなんかは、自分はどうしてここにいるんだろう、とよく考えたりもしていました」

 このような状況に陥ったとき、監督に不満を抱いてしまう選手も少なくないだろう。しかし、岡村は自身の成長に矢印を向けることで現状を打破していく。

「他人に矢印を向けても仕方がなかったので、自分が試合に出られないのは自分のせいと割り切りました。明らかにビルドアップの部分で、試合に出ていた宮澤裕樹さんだったりそういった選手に劣っているのは分かっていたので、ディフェンスの能力よりもそこをもっと鍛えなければ自分は試合に出られない」

 その後、2022年は21先発、2023年は30先発、2024年は32先発と押しも押されもせぬレギュラーに定着した岡村。「守備練習は一切しないですね。最初はビックリしましたよ。守備練習もしなければ、失点したことを振り返らないみたいな監督でした」という独特すぎるトレーニングが、急成長を後押ししたのだ。

「あそこまで形を持った監督にはなかなか出会わないと思うので、逆に選手としてはやりやすかったのはあります。ミシャが求めるものを出せば試合に出られますし、そういった意味では分かりやすい。逆に出ていない選手も課題に取り組めて、自分にはこれが足りないんだなとかそういうのが分かるというか」

 守備練習を一切しないにもかかわらず、急成長を遂げた理由を岡村はこのように断言する。「マンツーマンですよ。マンツーマンで勝手に鍛えられましたね」。ミシャの代名詞にもなった「オールコートマンツーマン」のスタイルの最後の砦として、抜かれれば即失点という絶体絶命のピンチを防ぎ続けてきた。

「だからこそ逆に僕のところで抑えられたら、僕の評価も上がります。そういった意味では、常に危険と隣り合わせでしたけど、逆に抑えるからこそ自分の存在価値を示せるというか。それを抑えてこそ、やっぱりお前だなと言ってもらえる機会も多かった。ある意味、自分には合っていたのかなと思いますね」

 そんなミシャだが、戦術だけではなく選手やスタッフとの距離感も独特だという。「お父さんだと、みんなに思われるくらい。ミシャも僕らのことを息子だと言います。やっぱり普通の監督との距離感じゃない。ミシャだけの距離感です」。だからこそ、離れたあとも本当の家族のように慕っている選手も多い。

「彼くらいじゃないですか。立ち上げの日をフィジカルコーチに全部任せて、練習の端っこで椅子に座ってコーヒー飲んでるの(笑)。そんな監督、僕は見たことない。本当、ミシャくらい。でも、ミシャだから許されるのもありますし。ただ、スイッチが入ったらもうガーガー言ううるさいおっちゃんなので」

 ミシャと会うときは、いつもハグから始まる。「おう、どうだ。疲れは取れたか」「家族といい時間は過ごせたか」。それもサッカーの話ではなく、プライベートな何気ない話題ばかり。「僕の親父ともミシャは仲良い。意味わかんないんですけど(笑)」と、選手の家族とまで親しくするのがミシャ流なのだ。

「選手と同じ風呂にも入るし、飲むし。距離感は、近いですよね。クラブハウスで一緒にシャワー入って一緒にサウナ入ってとか、僕らにはそれが当たり前だったから、特別それがおかしいとは感じなかったですけど。やっぱり今考えると、そういう意味では変わっているというか、何て言うんですかね(笑)」

 そのなかでも特に印象に残っているのは2023年10月、ミシャの誕生日を祝うために選手たちと食事に行ったあとのことだ。「お前ら、このあと飲みに行ってこい。すすきの行ってこい」。そう言って、札束をわたしてきたというのだ。

「選手に飲みに行かせるために監督がお金を出すという、なかなか見ない光景に出会ったりもしました。正確な金額を覚えていないですけど、そこそこあったんじゃないかと思います」

 それ以外にも、沖縄での長期キャンプ中の食事会でサッカーについて熱く語りあったり、思い出は尽きない。「もうありすぎますよ。本当に挙げればキリがないくらい。次から次へと出てきますよ」と懐かしむ岡村。5月30日、6月6日に行われる名古屋とのプレーオフで、さらに成長した姿をミシャに見せたい。

(FOOTBALL ZONE編集部・工藤慶大 / Keita Kudo)



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