塩貝健人は「少し輪の外側にいる」 監督が明かす現状…言葉の壁に「自分から話さないと」

ヴォルフスブルクの塩貝健人【写真:アフロ】
ヴォルフスブルクの塩貝健人【写真:アフロ】

ヴォルフスブルクの塩貝健人「生かしてもらうためにはコミュニケーションは必要」

 「僕はどっちかというと溶け込むというより、プレーで見せれば自然と向こうからくると思っています。でも自分を生かしてもらうためにはコミュニケーションは必要なので、頑張っていきたいです」

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 日本代表FW塩貝健人は今冬、オランダのNECからヴォルフスブルクへ加入直後にそのように話をしていた。ただ、ここまでの現実はシンプルに厳しい。ブンデスリーガでの出場時間は限られているのが現状だ。

 ヴォルフスブルクの前線起用には、現時点でディーター・ヘッキング監督は安定感を優先している。特に残留争いが続くシーズン終盤という状況もあり、指揮官としては計算できる戦力を軸に戦っているのが実情だ。

 1-1の引き分けに終わった32節フライブルク戦後の記者会見で、へキング監督が「いいアウェイ戦だった。FW2人は勤勉に守備をしてくれた。ボールをもっても、プランをもってのプレーが増えているし、安定感は出てきている」とチームパフォーマンスに好意的な評価をしていたことからも、その背景がうかがえる。

 塩貝の出場機会について、へキングは次のように説明していたことがある。

「この時期を耐え抜き、チャンスが巡ってくる瞬間を待たなければならない。2、3回途中出場した試合があったが、プレーがうまくいかない場面があった。練習を見れば彼のなかに確かなクオリティが秘められているのは分かっている。それを我々が引き出してあげなければならない」

 資質そのものは評価されている。塩貝の長所は、やはり前線での思い切りの良さだ。足元で受けて収めることもできるし、背後へ飛び出して迷わずシュートへ行くこともできる。連続でプレッシャーをかけ続ける意欲もある。停滞している雰囲気を壊すタイプとして、貴重な存在になり得るのは間違いない。

 ただ、その特徴はチームとかみ合わなければ武器とはならない。

「ストライカーとして、このチームのなかで劣っているとは思っていない」

 塩貝はそう語る。ストライカーとしての自信はとても強いし、強気な気持ちがもたらすアクティブさは大切だ。そしてもう一つ、見逃せない要素がある。言語だ。へキング監督も指摘しているところがある。

「言葉の壁はある。チームへの適応はまだ完全ではない。まだ少し輪の外側にいるような状態だ。もっと彼を(集団の)中心へと巻き込んでいければと思ってはいる。それはチーム全体として取り組まなければならないプロセスだ」

 チームとして成果を出すためには、互いの共通理解を深めることは必須条件だ。結束して、チーム一丸となり、汚れ仕事を厭わず走り、戦い続ける下地がなければならない。残留争いとなればなおさらだ。プレー機会をつかむためには、まずその選択肢のなかに入ってこなければならない。

 元日本代表FW岡崎慎司の指摘がとても示唆に富んでいる。

「監督が思ってる『このくらいやれている』という感覚と、その選手が思っているその感覚は違うことがあると思います。選手は『俺は全然やれているし、俺の方が上』って思っているところを、もっと超えてこないと、たぶん監督からしたら、『やっぱりこっちの選手かな』という決断をすることはあると思うんです。塩貝くんは若い選手。クラブからしたら、サブとして出場して、そこで活躍してくれたら御の字という立ち位置であっても不思議じゃない。

 そうした状況から這い上がって点取るっていうのは簡単ではないし、点を取ったからと変わるかっていったらそれもわからない。だから、メンタリティーであったり、リアクションであったり、何があってもポジティブな面をもたらしているかどうかっていうのは、けっこう大事かなと思うんです」

 試合に出られない時間は、静かに選手を削っていく。スタンドからピッチを見つめる時間。ウォーミングアップを終えても呼ばれない時間。試合が終わったあと、まだ身体は動けるのに、すでに全てが終わっているあの感覚。

 そこで腐ることは簡単だ。環境のせいにすることもできる。だが、塩貝はそれをしていない。むしろ、自分に矢印を向けている。コミュニケーションをとることにも挑戦しようとしている。

「もっと自分から話さないといけない」

 そうも語っていた。ブンデスリーガで生き残る選手は、ピッチ内だけでなく、ピッチ外でも適応しているのだ。そしてどれだけトレーニングで良い動きをしても、どれだけ可能性を見せても、それが監督からの確信に変わるには時間ときっかけが必要だ。

 バイエルン戦はそのきっかけになったはずだ。後半30分から途中出場を果たすと、同44分、4人に囲まれながらボールをキープし、ゴール前に決定的なパスを通した。フリーで走りこんだマティアス・スバンベルクの右足ダイレクトシュートはポスト直撃でゴールにはならなかったが、このプレーには確かな何かがあったはず。

 最終節ではザンクトパウリとアウェイで対戦する。引き分けても、ハイデンハイムがホームでマインツに勝利すると、16位の座を明けわたすことになる。勝つしかない試合で、塩貝の思い切りが試合を決定づける何かになるかもしれない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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