覚悟の退部→前倒しでJ加入「やっと楽に」 実った11本目のシュート…190センチFWに覚醒の予感

仙台の中田有祐がプロ初ゴールを決めた(写真中央)【写真:Getty Images】
仙台の中田有祐がプロ初ゴールを決めた(写真中央)【写真:Getty Images】

仙台FW中田有祐が栃木SC戦でプロ初弾

 愛するベガルタ仙台の力になりたい。阪南大学サッカー部を退部し、2027年の加入を1年前倒ししてプロの世界へ飛び込んだ中田有祐(ゆう)が、6日の栃木SC戦でプロ初ゴールとなる決勝弾を決めた。身長190cm・体重86kgの期待の大型ストライカーは、どのような思いで21歳でのプロ入りを決めたのか。(取材・文=藤江直人)

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 公式戦でデビューを果たしてから407日目。その間に18試合に出場してきたベガルタ仙台の中田有祐が277分目、数えて11本目のシュートを待ち焦がれてきた初ゴールに変えてチームの救世主になった。

 ゴールデンウィーク最終日の6日に、ホームのユアテックスタジアム仙台に栃木SCを迎えたJ2・J3百年構想リーグ地域リーグラウンドEAST-Aグループ第15節。歓喜の場面は1-1で迎えた後半13分に訪れた。

 縦パスに反応して左サイドを突破した岩渕弘人が、グラウンダーの高速クロスを折り返した直後だった。

「フリーだったので、とにかくニアに突っ込む動きだけを意識しました。そこへ岩渕選手がパーフェクトなクロスを送ってくれたので、あとは落ち着いて決めるだけでした。ゴールが決まるまで一瞬だったというか、本当に何の記憶もなくて、ボールが相手キーパーのどこを通っていったのかもよくわからないくらいでした」

 右足をワンタッチさせた中田の一撃が、相手キーパー川田修平の右をすり抜けていく。身長190cm・体重86kgの期待の大型ストライカーの脳裏に浮かんだのは安堵感であり、そして万感の思いが続いた。

「ホッとした、やっと楽になれた、という思いが強かったですね。昨シーズンから数多くの試合出させてもらっているなかで点を取れなかったので。あとは高校生で仙台のユースに入ってから、いつか必ずこのスタジアムでゴールを決めたい、と思ってきたので、ようやく叶えられました」

 群馬県出身の中田は東京ヴェルディのジュニアユースを経て、2020年に仙台ユースに加入した。トップチームの公式戦をユアテックスタジアム仙台のスタンドから観戦しながら、プロになる夢を膨らませた。

 しかし、トップチームへの昇格は叶わなかった。捲土重来を期した当時の胸中をこう振り返る。

「何度もトップチームの練習に参加させてもらう機会がありましたけど、そのなかでまだまだ無理だなと何度も思わされました。もちろん悔しかったですけど、素直に大学へ進んで出直してくるしかない、と」

 実力不足を痛感した中田は、2023年に入学した関西の強豪校、阪南大学での日々でさらに心技体を磨きあげた。2年次の総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントでは、新潟医療福祉大学との決勝で同点ゴールをゲット。12年ぶりとなる阪南大学の優勝に貢献するなど、結果を介して評価を高めた。

 迎えた昨年3月。卒業後の2027年からの仙台加入が発表された。ユース時代の3年間で仙台のすべてに魅せられ、必ず恩返しを、と期してきた中田は夢がかなった心境をこう振り返っている。

「プラン通りというか、結果として帰って来られて、頑張ってきて本当によかったと思いました」

 同時にJFA・Jリーグ特別指定選手として承認され、仙台の公式戦に出場できるようになった中田は昨年3月26日に、栃木とのYBCルヴァンカップの1stラウンド1回戦でさっそくデビューを果たす。

 しかし、延長戦の後半からピッチに立った栃木戦に加えて、第19節以降の12試合で起用されたJ2リーグ戦でトータル104分間にわたってプレーしながら無得点。放ったシュートも計9本に終わった。

 リーグ戦では、2021シーズンを最後に遠ざかっているJ1昇格を目指すチームと同じ時間を共有し続けた。しかし、思うように力になれない。J1昇格プレーオフ進出がかかったいわきFCとの最終節ではリザーブのまま、今シーズンからチームメイトになった五十嵐聖己(せな)の決勝ゴールで終戦を迎えた瞬間を見届けた。

 悔しさと不甲斐なさを募らせ続けた過程で、心境に大きな変化が生じたと中田は明かす。

「チームに何も貢献できず本当に悔しい思いをしてきたなかで、いち早くこの気持ちを晴らしたい、チームを昇格させたい、と。そういう思いを大学のほうにも理解してもらって、このような決断をさせてもらいました」

 中田が言う「このような決断」とは、当初の予定を1年前倒ししての仙台への加入。阪南大学経営情報学部には4年生として残る一方でサッカー部を退部した中田は、理解を示してくれた大学側に心を震わせた。

「大学側の意向もありますし、もちろん自分一人で決められるものでもありませんでした。そのなかでもう一人、セレッソ大阪に同じく前倒しで入った同級生の金本毅騎とともに、最後は『お前たちの思うようにやって来い』という言葉をいただきました。阪南大学には本当に感謝していますし、いい報告がひとつできると思います」

「自分の中で自信がついた試合」

 背番号を「48」から「20」に代えて臨んだルーキーイヤー。仙台が開幕から破竹の連勝をマークした百年構想リーグだったが、中田はなかなか試合に絡めない。第11節までにすべて途中出場で試合、プレータイムの合計がわずか57分にとどまったばかりか、シュートそのものも放てない状況が続いた。

 しかし、FW陣に故障者が続出したなかで昨シーズンを含めて初めて先発で起用され、後半13分までプレーしたブラウブリッツ秋田との前節が、中田のなかで眠っていた感覚を蘇らせた。

 秋田戦でも自身が放ったシュートはゼロに終わっていた。試合も1-3で完敗を喫し、開幕から続けていた連勝が13で途切れた。そのなかで中田は「目が慣れました」と個人的な収穫をあげている。

「途中出場だと試合展開次第でどうしてもバタバタしてしまうし、自分がプレー強度に合わせるのも難しい部分がありました。前節でも特に前半は何もできなかったけど、それでもスタートから出してもらったなかで、徐々に落ち着いてプレーできる場面が増えてきた。自分のなかで自信がついた試合でした」

 秋田戦に続いて先発した栃木戦。中田自身が「試合への入りから、はっきりと自分のプレーができました」と振り返ったように、前半終了間際にはバイタルエリアへドリブルで侵入してきた左ウイングバック石井隼太とのワンツーを鮮やかに成功させ、最後は岩渕が叩き込んだ同点ゴールをお膳立てした。

 そして歓喜の逆転ゴールを決めた直後。中田はゴール裏のファン・サポーターへ深々と頭を下げた。

「特別指定選手だった昨シーズンから、うまくいかないときも常に大きな声援をいただいていたので」

 丁寧なお辞儀に込めた思いをこう明かした中田は、終盤戦に入った百年構想リーグへ視線を向けた。

「あと2、3点は取りたい。前半戦はメンバー外が多く続いてかなり出遅れたというか、何もチームに貢献できなかったので、後半戦も終盤に入ったなかでもう少し力になれるように挽回したい」

 覚悟を決めてプロの世界へ飛び込んだ21歳に覚醒の予感が漂う仙台は、ヴァンラーレ八戸のホームに乗り込む10日の次節で90分間での勝利を収めれば、地域リーグラウンドEAST-Aグループの首位通過が決まる。

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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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