入学直後は5軍…筑波大に現れた“無名の一般生” 学業専念のはずが「僕もサッカーを」

筑波大の安藤誠悟【写真:小川遼也@筑波大学蹴球部】
筑波大の安藤誠悟【写真:小川遼也@筑波大学蹴球部】

筑波大の安藤誠悟「これからサッカーで生きていく選択肢も出てきたのかな」

 4月に開幕した大学サッカーリーグ戦。プロ内定選手、これからプロを目指す選手、そして大学という新たなステージに移行した選手たちが全国各地で激闘を繰り広げる。今回は関東大学サッカーリーグ1部第6節・筑波大vs桐蔭横浜大の一戦から。この試合で決勝ゴールを叩き込んだのは“一般生”の3年生FW安藤誠悟だった。

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 ファジアーノ岡山内定の小川遼也ら一般入試から入学した選手が活躍することは、筑波大において珍しいことではないが、安藤は全くの無名の存在だった。県内トップクラスの進学校である山形南高サッカー部出身で、県2部リーグ、県予選1、2回戦敗退というなかで、どのようにこのステージにたどり着いたのか。

 スタメンが告げられたのは、試合前日の練習だった。3年生になった今年からトップチームに上がるも、「1トップという1つしかないポジションで、1個上には(小林)俊瑛くんがいて、1個下には(山下)景司、1年生には大石(脩斗)がいて、全員が全国トップクラスの選手。真っ先に2軍に落ちるのは自分だと思っていた」と口にしていたが、大石が負傷し、ここに来て山下も負傷離脱したことで、一気にチャンスが巡ってきた。

 180センチのサイズと屈強なフィジカルを持ち、ボールを収めたら身体を張ったボールキープとガムシャラにゴールに飛び込んでいける迫力を持つストライカーは、第4節の法政大学戦でラスト5分に投入され、念願のトップデビューを飾った。

 そして、桐蔭横浜大戦で待望のときは来た。1トップとしてスタメン出場を果たすと、トップ下の大谷湊斗と息の合った連係を見せた。身体を張ったプレーでボールを集約し、落としたボールを大谷、ボランチの矢田龍之介らが飛び出してラインブレイクし、試合を攻勢に進めた。

 そして0-0で迎えた前半39分、左サイドを大谷が突破した瞬間、ゴール前のスペースをいち早く見つけた。

「湊斗なら絶対に突破するだろうなとは思っていたので、クロスに対してはキーパーを越したところに入っていこうと試合を通して狙っていました。狙ったスペースが見えたので飛び込んだら、湊斗からドンピシャのボールが届いたので合わせるだけでした」

 大谷から放たれた山なりのクロスに対し、安藤はゴール前で頭1つ抜け出した状態で、空中からヘッドでゴールネットに叩きつけた。

 念願のトップ初ゴールは、関東大学サッカーリーグ1部の貴重な先制弾となった。このゴールで勢いに乗った筑波大は、MF加藤海輝と後半18分に安藤と交代をした小林が加点して、3-0の勝利。初ゴールは決勝弾となった。

「入学直後は6軍あるなかでの5軍で、昨年の秋までは3軍、そこから2軍と下から徐々に序列を上げていくことができましたが、3年でトップの試合に出られるとは正直思っていませんでした」

 山形県出身の安藤は小学校、中学校と山形FCでプレーするが、当時から国立大への進学を希望し、サッカーよりも勉強にウエイトを置いていた。

「もちろん高校サッカーは強いところでやりたかったのですが、山形県内だと勉強は公立が優位で、サッカーも勉強も両方高いレベルでやるためには県外に出るか、県内の進学校に入って、かつモンテディオ山形ユースでプレーすることしかなかったんです。

 県外は考えられないし、かつ自分がモンテディオユースに入れるわけがないと思っていたので、そもそもセレクションすら受けませんでした。そうなると勉強一択になって、(県内で山形東に次ぐ2番目と言われている)山形南高の理数科に進学をしました」

 安藤が在籍した期間の山形南サッカー部は1年時にインターハイ予選、選手権予選ともに県ベスト8となったが、それ以降は2回戦敗退が続いた。リーグも県リーグ1部、2部を行ったり来たりし、高校3年生のインターハイ予選をもって、安藤を含む3年生全員が受験に専念するためにサッカー部を離れた。

「6月からずっと勉強でサッカーは一切やっていませんでした」と受験勉強に打ち込んでいた安藤は、当初は千葉大学工学部デザインコースを志望していた。しかし、「山形南の3学年上の先輩が筑波大に入って、蹴球部の2軍でプレーしているという話を聞いて、やっぱり僕もサッカーを一生懸命続けたいと思うようになったんです」と、夏過ぎに志望校を筑波大に切り替えた。

 この3学年上の先輩とは、モンテディオ山形ユースでプレーしていたFW庄司夢ノ介だった。トップチームでも多くの試合に出場していた庄司は、今はJFLのHonda FCでプレーしている。

 先輩の背中を見て、サッカーへの気持ちが再燃した。共通テストで結果を残せたことで、前期試験で筑波大生命環境学群・生物資源学類への合格を勝ち取った。

「蹴球部ではとにかくどのカテゴリーでもガムシャラに取り組もうと思っていました」と口にした通り、どの立場でも泥臭くゴールを狙い続け、チームのために身体を張り続けた。この初志貫徹の精神が信念となり、大きなチャンスを引き寄せることになった。

「この初ゴールによって、これからサッカーで生きていく選択肢も出てきたのかなと思います。でも、大石や景司が復帰してきたら、さらに競争が激しくなるので、とにかくチャンスを掴んだら結果を残すというガムシャラな気持ちを大事にしていきたいです」

 自分を一言で表すなら“突破系”と口にする安藤。一般生の可能性を広げる存在として、1トップの激戦区を突破し、相手の守備網も突破していく。さらに自分の限界も突破していく力強さを持って、きょうもガムシャラにサッカーに打ち込む。

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』、新刊は『ともに歩き出す サッカーと家族と新しい日常』(ともに徳間書店)。講演家としても全国を回っている。

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