「日本だけに収まるのはもったいない」 Jユースを指導した経験を持つ社長が信じる子どもたちの才能

ファンルーツ社長・平野淳氏がジュニア育成への思いを語った【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
ファンルーツ社長・平野淳氏がジュニア育成への思いを語った【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

ファンルーツ社長・平野淳氏が感じる日本の育成の現在地

 今年で15回目を迎える育成年代の国際大会「コパ・トレーロス2026」が、3月28日から4月3日にかけて静岡県御殿場市など6会場で開催される。国内強豪のほか、海外の名門クラブも招待される“祭典”を2010年に立ち上げたのが、株式会社ファンルーツ代表取締役社長でFCトレーロス代表の平野淳氏だ。

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 過去にはFC東京や横浜F・マリノスなどのJリーグ下部組織でコーチを務め、ファンルーツ発足後はサッカースクール・クラブ運営、イベント運営、コンサルティング事業、そして海外選手のライセンスビジネスなどを手掛けてきた平野氏。海外数か国の指導者ライセンスも取得している同氏に、異色のキャリアを経て大会開催にたどり着いた理由、日本の育成の現在地などについて聞いた。

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 Jリーグが創設されて間もない1990年代前半に海外へと渡り、欧州数か国に加えてアメリカ、オーストラリアでの指導者ライセンスを取得した平野氏。歩んできたキャリアと多様な経験によって、育成年代における国際経験の重要性を強く認識するようになった。2010年の段階で“国際大会の設立”という選択に至ったのも、そうした思いがあってのことだ。

「欧州では街クラブが主催の大会がたくさんあります。例えば、ドイツのデュッセルドルフには過去に日本の高校選抜が参加していた大会があり、それも街クラブが主体となって開催しています。そうした由緒ある国際大会がいろいろなところで開催されています。一方、2010年当時の日本では、街クラブはもちろん、Jリーグのクラブも国際大会をほとんど開催していませんでした。それなら東京の街クラブであるFCトレーロスでやってみよう、というのが大会を始めたきっかけです。

 サッカーはグローバルスポーツです。サッカーの一番いいところは何なのかというと、エリート選手の教育もすごく大事なのですが、それ以外の部分で国際交流や、サッカーを取り巻く社会的な背景にフォーカスをすることが非常に大事なことだと思っています。そのために、日本にいる子どもたちに国際経験を積んでほしいという気持ちがあり、現在のような国際大会になりました」

 競技的な側面だけでなく、子どもたちの成長には国際経験が重要であり、それがサッカーをきっかけに実現できるならば助けになりたいという思い。平野氏自身、サッカーを通じて国際的なネットワークを広げ、現在の仕事にも活かしているからこそ、「『世界は広く、多くのチャンスが転がっている』ことを、サッカーを通じて子どもたちに伝えたい」という言葉には説得力がある。

 そんな背景とともに育ってきた「コパ・トレーロス」では、世界各国のサッカーの育成現場を間近で見られる貴重な機会だ。世界の育成事情に精通する平野氏は「指導者の質やテクニカルな側面は日本はかなり高いレベルにあると思います」と実感している一方で、「インフラやサッカーを取り巻く環境には大きな違いがある」と語る。

「今回大会に参加するFCポルトをはじめ、多くのトップクラブでは、育成年代の選手はだいたい1~2年契約になっていて、カテゴリーが上がるタイミングで、そのまま上がれる選手の数はかなり限られます。そこには激しい競争が常にある。そして、欧州の多くの国は少し足を延ばせば隣国に行けることから、他の国との対戦を定期的に行う機会があります。特にジュニア年代は国際大会がたくさんあって、リーグ戦よりも国際大会で忙しいくらい、常にいろいろなチームと戦っている環境です。そうした経験値は、日本との差になっていると思います。そして何よりも欧州はサッカー場などのインフラ面が充実しており、サッカーを行える環境は日本と比べ物になりません」

 欧州の環境の全てが必ずしも良いというわけではなく、環境面についてはそう簡単に解決できる問題ではない。ここで重要なのはそうした環境で築いたチームを見て何かを学ぶこと。「例えばFCポルトやVfLボーフムのコーチの試合中、試合後の声掛けやや姿勢を見て、学ぶところも多くあると思います。大会を通じて何かを吸収したり、刺激を受けたりしてもらえたら嬉しいです」と平野氏。国際交流を深めるなかで、自分たちにとってプラスとなりそうな事柄や姿勢があれば、取捨選択の上で取り入れることが日本の育成環境を前進させることになる。

今の日本の子どもたちは海外相手でも「主体的に戦う姿勢がある」

 翻って、日本の育成現場は平野氏の目にどう映るのか。欧州での日本人選手の活躍、日本代表の好成績もあり、「世界的に認められてきていると感じますし、それが一つの道標になって、子どもたちにとっても海外が遠い存在ではなくなってきている」という所感とともに、実例を挙げて明確な“変化”に言及した。

「実際に『コパ・トレーロス』でも、過去の大会でドルトムントやアトレティコ・マドリードが来た時には、みんな試合をする時に相手に多くのリスペクトをしているような雰囲気がありました。でも、今はもう子どもたちも対等に戦うようになっていると思いますし、だいぶ意識やマインドのところに変化はあるのかなと感じています」

 トップレベルでの日本サッカーの成功と、少しずつ積み上げてきたジュニア年代での国際経験が、子どもたちのなかに浸透してきたことで、クラブの名前に気圧されることなく戦えるようになった。その先にある未来に向けて、平野氏は思いを馳せる。

「日本でも『コパ・トレーロス』に限らずもっと国際大会が増えていけば、日本にいながらも海外との試合経験も増えて、子どもたちの意識が変化したり、より海外に目を向けるようになると思います。サッカーでチャレンジしてもらえたら嬉しいですが、サッカーをきっかけに、サッカーに限らず、様々な分野で若い人たちが海外で羽ばたいてほしいです。

 日本人には他の国の方々に劣らない、優れているところがたくさんあると思います。そうした才能が日本だけに収まってしまうっていうのはもったいないなと、常日頃感じています。日本は不自由なく暮らせる国ですし、少し気を許すと『もう日本から離れたくないなぁ』という気持ちになるのも十分わかります。ただ、特に若いうちはどんどん海外にチャレンジしていくことの大事さがあると思っています」

根底にある「海外に触れる貴重な経験の場になってほしい」の思い

“ジュニア年代に海外との接点を増やす”という目的意識とともに取り組んできた平野氏だが、「コパ・トレーロス」立ち上げから16年が経過し、国内の環境も少しずつ変化してきた。特に育成年代における国際大会の数は増加し、告知を目にする機会も少なくない。

「『コパ・トレーロス』の立ち上げ当初、他の大会はほとんどなかったのですが、その後にいろいろJクラブや地域の協会が国際大会を開催するようになりました。私としてはすごく嬉しいです。我々がいち街クラブ、いち一般企業として大会を開催することで、少しでもサッカー界の刺激になってほしかったですし、『もっとやってほしい』という想いを伝えたかった。今はその流れがどんどん広がっていますし、素晴らしいことだと思います」

 もちろん、自身が主催する『コパ・トレーロス』を子どもたちにとってより有意義なものにするための努力にも余念がない。開催のたびに時勢に合わせて設置カテゴリーを変更・調整し、今回ならU-13男子とU-15女子の存在が大きな変化となっている。

「いろいろなカテゴリーがあるなかで、海外のチームがいるカテゴリーといないカテゴリーがありますが、まずは『コパ・トレーロス』を通じて少しでも海外に触れる機会を作り、子どもたちが海外に目を向けてほしいなという思いがあります。

 例えばU-15女子は、今大会で優勝したらデュッセルドルフで開催する『POWER CUP』という国際大会に招待されます。この大会は多くのブンデスリーガの女子チームが参加する大会です。昨年浦和レッズレディースも参加し、素晴らしい経験を積むことができました。また、他のカテゴリーも優勝したら海外の大会に招待する予定です。日本国内での国際経験プラス、勝ち上がれば海外にもチャレンジできる。子どもたちにとって、海外に羽ばたいていくきっかけになるような大会になってほしいですね」

 その時々のベストを目指してアレンジを重ねてきたが、平野氏が抱く参加する日本の子どもたちへの想い、大会の根底にある意義は不変だ。

「2010年から開催しているコパ・トレーロスですが、今回もさまざまな国から選手たちが集まってくれています。だからこそ、ただ試合をするだけでなく、この場所でしか生まれない「交流」を大切にしてほしいと思っています。勇気を出して声をかけてみたり、どんな些細なものでも良いのでプレゼントを交換してみたり、小さなきっかけでいいので、選手たち同士がつながる時間をつくってくれたら、とても嬉しいです。この大会が、サッカーだけでなく「出会い」の場になることを願っています。」

 今年も関東の様々な会場で日本と海外の“育成の現在”が交わり、サッカーをきっかけに子どもたちの未来が広がっていくはずだ。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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