ランパードが信頼を寄せる日本人「人生を懸けて」 “世界一”の2部に挑む29歳「何ができるのか」

コベントリー・シティ坂元達裕はランパード監督の信頼を得ている
コベントリー・シティの坂元達裕が、「毎試合、自分のサッカー人生を懸けて試合をすると意識している」と言っていたのは、チャンピオシップ(2部)での昨季最終節後だった。チームは、最後のプレミアリーグ昇格枠を争うプレーオフ(3〜6位)進出を決めた。だが最終的には、準決勝でサンダーランドに敗れてしまう(合計2-3)。坂元自身は、ホームとアウェイの2試合ともフル出場で、チーム随一の出来。前シーズン終盤に負った、腰椎の横突起骨折という大怪我を克服しての移籍2年目だったが、あと“二歩”プレミアには届かなかった。
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それから10か月、坂元が右ウイングに定着している今季のコベントリーは、リーグ首位で昇格争いをリードしている。3月14日の第38節、開幕から1敗のみのホームゲームに勝てば、残り8試合で後続を10ポイント以上引き離し、自動昇格(トップ2)へと大きく前進しているところだった。
坂元の決意は、プレーを見れば明らか。開始早々の5分には、軽快なワンツーでシュートチャンス創出に絡み、その15分後には、ピッチ上で最も小柄な部類でありながら、猛然と逆サイドからのクロスに走り込んでヘディングシュートを試みた。
2024年11月の監督就任以来、コベントリーをトップ6候補から優勝候補へと進化させたフランク・ランパードは、大前提としてハードワークを求める。坂元にとっては望むところ。後半32分にベンチに下がる前の10分間にも、五分五分の競り合いに勝ったかと思えば、果敢なプレッシングでボールを奪い返し、鋭い切り返しで敵を抜き去った時と同様、ホーム観衆から拍手喝采を浴びた。ベンチ前では、指揮官からハイタッチで労をねぎらわれてもいる。
もっとも、そこは「競争力世界一の2部リーグ」と言われるチャンピオンシップだ。この日は、ポゼッション(57%)でも、シュート数(20本)でもサウサンプトンを上回りながら敗戦に終わった(1—2)。自軍が6連勝中なら、敵軍も、フルアムを下したカップ戦を含む11試合連続無敗中という上位対決だった。
「もちろん、勝つべき試合だったと思います。前半も決定的なチャンスはいくつかありましたし、それを決め切らないといけない。これまでの6試合は、それを決めてきたから勝っていた部分があって、逆に決定的なチャンスを作られても、それを守り抜いて勝ち切った。楽な試合ではなかったので、正直、(敗戦は)起こりうる結果だと思いますし、下を向く必要はない。まだまだ僕らはトップにいるので、次にどうリアクションを取るか、チームとして(白星街道に)戻っていくかというところがいちばん大事だと思うので、頭を落とさず、次に向けてチーム全体でやっていければいい」
一言一言を、自ら噛みしめるように口にした坂元。当人の言うとおり、6連勝の中には、どちらも坂元が先制ゴールを決めたブリストル・シティ戦(2—0)とプレストン・ノース・エンド戦(3—0)のような完勝だけではなく、しぶとくもぎ取った辛勝も存在した。
その1つが、2月末の第35節ストーク戦(2—1)。中位チームから早々にリードを奪ったが、ハーフタイム直前に相手1本目のコーナーキックから追いつかれ、後半アディショナルタイムの決勝点を必要とした。坂元は、後半にベンチを出て巻き返しに貢献。絡んではいなかったのだが、トップ下のジャック・ルドニが勝ち越しゴールを決めると、自らのゴールと変わらぬ歓喜の表情で走り寄る姿が印象的だった。辿り着くと、背後から控えめなハグで祝福するあたりも坂元らしく思えたが、ほどなくして試合終了の笛が鳴ると、両の拳を握り締めて短く吠える姿があった。
「自分のサッカー人生の集大成」
この折れない「チームの心」こそが、あと“二歩”でプレミア昇格を逃した昨季とは違うように感じられる。坂元も実感している。
「チームの目指すべきものがより明確になって、今までにないような団結感を感じますし、こういうタフなリーグなので、チームとしての気持ち、めちゃくちゃ大事なんですよ。他のリーグよりも、そういう部分はすごく求められると思う。なおかつ、クオリティのある選手が多いので、ハードワークも、切り替えもしっかりできれば、僕らは自ずとトップにいるべきチームだと思う」
コベントリーは、サウサンプトン戦でも7分間の後半アディショナルタイム中に1点差に詰め寄り、同点のチャンスも作り出していた。ただし、敵にも勝ち点を手にする資格はあった。結果的に3ポイントを奪う過程では、右ウイングで先発した松木玖生が、1ゴール“0.8アシスト”の出来。左足での内巻きのクロスがファーポストを叩き、そのリバウンドから先制点が生まれている。敗軍の右ウイングは、素直に勝利チームの貢献者を称えた。
「今日はまさに、彼に得点も決められていますし、1点目も彼のいいクロスからだったので僕らは完全にやられた側。22歳の若さで、このリーグで戦えていることが本当に素晴らしいですし、最近、結果を残していてすごいと思います。あの年代で、ここのリーグでしっかりと試合に出て経験を積めることがどれほど価値があるか、僕は遅くにこのリーグに来たのですごく感じるので、羨ましいなとも思います。明るい未来が待っていると思うので、頑張って欲しいですね」
そう言って優しい表情を浮かべた坂元自身にも、プレミア昇格という明るい近未来が待っているに違いない。敗れたコベントリーだが、今季は昨年末からのスランプを脱した経験もある。前半戦から独占していた首位の座を、後半戦に入って一時明け渡したが、見事に立ち直ってみせたのだ。
「苦しい時期もありましたけど、どのチームにも起こりうることだと思いますし、自分にも浮き足立たないように言い聞かせながらやってきた。多分、転機はミドルズブラ戦だったと思いますけど、大一番でしっかりと勝ちをもぎ取って今に戻ってきているので、今日みたいな負けもあるとは思いますけど、さっきも言ったように、どうチームとしてリアクションできるかが大事だと思うし、今の僕らにはできる自信がある」
リーグ戦で、2勝2分け4敗と負け越した約1か月半の間、チームが完全に自信を失うことがなかった事実は、監督としての評価を上げているランパードの手柄だと言える。
「やっぱり選手としての経験も誰より持っていますし、僕らの気持ちも(これまでの)どの監督よりもわかっていると思うので、うまくいかない時の立ち直り方だったり、気持ちの部分は大きいと思うので、そこの士気をしっかりと上げてくれる監督にはすごく感謝しています」
そう語る坂元は、自らのパフォーマンスで恩返しをしている。本人が触れた2月半ばの第42節ミドルズブラ戦(3—1)、瞬時のターンとドリブルで3人をかわした「先制アシストのアシスト」で、チームを首位奪回へのレールに乗せているのだ。
ランパード率いるコベントリーに、25年ぶりとなるプレミア復帰への推進力を与えているウインガー。その胸には、同時に2021年以来となる自らの日本代表復帰への思いもあることだろう。
「もちろん入れたら嬉しいですけど、入れなかったらそれなりの理由があるのだと思うし、そこは僕も理解します。年齢(29歳)も年齢ですし。僕が絶対的な結果を残していれば、そこは自ずと見えてくる。とにかく今年は、チームとして昇格することだけを目標としてやってきているので。僕は常に、自分にはまだ何か足りないって思いながらプレーしている。もっともっと結果を残せるようにやっていかなきゃいけない」
晴れて目標達成となれば、年齢が30歳になるシーズンを念願のプレミアを戦う来季がやって来る。謙虚だが、芯は誰よりも強い右ウイングの“ファイター”は、最後にこう決意を語ってくれた。
「僕は、プロになってから大きなものを何も成し遂げたことがない。優勝であったり、昇格とか、カップ戦でも(タイトルを)獲ったことはないですし。サッカー選手、みんなそうだとは思うんですけど、なかなかうまくいかない時期を、もがいてもがいて乗り越えながら、なんとかここまでステップアップしてきた。この(今季最後の)2か月は、自分のサッカー人生の集大成になると思います。そこで僕に何ができるのか、チームとして何ができるのか、何を達成できるのかがすごく大事。まだ8試合あるので、1試合1試合をカップ戦の決勝だと思ってやっていかないと(リーグ)優勝、(プレミア)昇格はできないと思っています。浮き足立ってもいないですし、余裕も全くないですし、常に危機感を持ちながら毎試合、チャレンジしていきたい」
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。



















