地方で聞いた「女子チームがないから辞める」 深刻な環境格差…届けたい「こういう楽しい選択肢があるよ」

鮫島彩さんが語る、地方出身だからこそ感じる想い
元なでしこジャパン(日本女子代表)の不動の左サイドバックとして、W杯優勝やロンドン五輪銀メダル獲得に貢献してきた鮫島彩さん。引退後の2年間で見えてきた「現在地」と「思い描く夢」とはどんなものだろうか。独占インタビューでその熱い思いを告白した。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・砂坂美紀/全4回の最終回)
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鮫島さんの情熱は“女子サッカーの普及”へと注がれている。
「引退してからの約2年間は、とにかく色々なイベントに参加させていただきました。おかげで自分の知見を広げることができました。イベント一つとっても、形も違えば運営の仕方も違う。多様な現場を体験することで、自分に何ができるのかを模索していました」
彼女がそこで直面したのは、都市部と地方における“環境の格差”だった。
「2011年の(W杯)優勝メンバーの中でも、都心部や政令指定都市以外の、いわゆる『地方』出身者は、片手で数えるほどしかいません。私自身、地方(栃木県河内町/現・宇都宮市)から代表まで経験させてもらい、あの世界一の景色を見せてもらいました。だからこそ、今度は自分が地方の子たちに、環境に左右されないきっかけを届けたいんです」
地方のイベントで、彼女は多くの切実な声を聞いてきた。
「地方に行くと、中学生に上がるタイミングで『女子チームがないから、サッカーを辞める』そんな女の子たちの声を実際に聞きます。地方は車社会である場合が多く、保護者さんの送迎がなければ練習にも行けません。遠すぎて通えないという物理的な壁もあります。男子チームで頑張っている子もいますが、やはりフィジカル差が出てくると出場機会が減ってしまいます」
そんな現状を見るたびに、鮫島さんはもどかしい気持ちになった。
「潜在的に『やりたい』と思っている子はたくさんいるのに、環境がないせいで、『始める』ことも、『続ける』までに至らないことがあります。そこが本当にもったいないと感じるんです」

5歳上の安藤梢の背中を見て『自分もいつかは』 ベレーザの選手のサインを今も大切に
自身も小学1年生から中学卒業まで女子チームの河内SCジュベニールでプレーした経験があるからこそ、環境の大切さが身に染みている。
「とにかく“サッカーは楽しいもの”という感覚をここで身に付けました。アットホームな雰囲気の中で、社会人のお姉さんたちに混ざって1対1の練習をするのが大好きでした。勝ったらコートに残れるというルールで、必死に食らいついていた思い出があります」
当時のクラブには、後に共になでしこジャパンとして世界で戦うことになる安藤梢(三菱重工浦和レッズレディース)も在籍していた。鮫島さんが小学1年生のときに、安藤は小学6年生で全国制覇を果たしたチームの中心選手。サッカーが抜群に上手くて優しい性格の安藤の存在は大きく、良きお手本にもなった。
「梢ちゃんは才能の塊。高校生で代表に選ばれて活躍していました。大きな存在が身近にいたことで、『自分もいつかは』という気持ちにもなれました」
さらに、数えるほどだが全日本女子サッカー選手権(現・皇后杯)やL・リーグ(現・なでしこリーグ/日本女子サッカーリーグ)の試合を少女時代に観戦することができたのもサッカーを続ける後押しとなった。当時の読売ベレーザ(現・日テレ・東京ヴェルディベレーザ)の選手たちにもらったサインは、小学生の時も、プロ選手になっても、母になった今もずっと大切にしている。有形無形の“思い出”の重要性を感じている。
「サッカーは楽しい」を全国各地の子どもたちへ
鮫島さんは今後の夢として、自らの手で“プロジェクト”を立ち上げようとしている。
「親子サッカー教室など、子どもたちに向けた具体的な取り組みを自分自身のプロジェクトとして形にしていきたいんです。“救う”というとおこがましいですけど、今やっている子たちには『やっぱりサッカーは楽しい、続けたい』と思える機会を作りたいし、まだやっていない子たちには『こういう楽しい選択肢があるんだよ』というきっかけを届けたい」
彼女が目指すのは、単なる技術指導の場ではない。サッカーを通じて世界が広がる楽しさ、そして、どんな場所に住んでいても夢を描けるという「きっかけ」の提供だ。
この壮大な夢を語る鮫島さんの顔は、柔らかな希望に満ちている。そしてその夢には、かつて共に戦った戦友たちも共鳴している。
「この前、近賀(ゆかり)さん、(阪口)夢穂、(熊谷)紗希と一緒にご飯へ行った時に、『これからこういうことをやっていきたいんだよね』って、まだざっくりとした構想ですけど話したんです。そうしたら『ゲストで行く』『協力するよ』って即答してくれて。ぜひ実現させたいなと思いました」
「サッカーは楽しい」そのシンプルなメッセージを伝えるために、鮫島さんはまだ見ぬサッカー少女たちの待つ地方へと、新しいパスを出しに出かける。不動の左サイドバックは、ピッチから全国各地のフィールドへと舞台を移し、女子サッカーの明るい未来に向けて、再び走り始めている。
(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)




















