J名門DFの言語化能力「授業をやっていた」 対話で”答え合わせ”…それでも感じた「直感も大事」

山原怜音に生まれた移籍後初ゴールは、実に美しい軌道だった。

川崎でプレーする山原怜音【写真:徳原隆元】
川崎でプレーする山原怜音【写真:徳原隆元】

今季より川崎に加入したDF山原怜音

 山原怜音に生まれた移籍後初ゴールは、実に美しい軌道だった。

【実際の動画】「第1歩を踏み出せた」川崎移籍の26歳SBが決めた華麗な”逆足”ミドル弾

 明治安田J1百年構想リーグ・第3節のFC東京戦の31分、脇坂泰斗とのワンツーで抜け出し、カットインしながら放ったシュートが鮮やかな弧を描いてゴールネットを揺らす。劣勢だった中で決めたゴラッソ。ただし、「あんまり喜んでる暇もなかったですし、(同点に)追いついただけだったので」と、本人は控えめなガッツポーズだった。両足の高いキック精度を誇る27歳のサイドバックは、一矢報いるゴールで存在感を示した。

「自分としては、アシストやゴールに直結するプレーをずっと考えてました。点が取れるサイドバックになりたいと思っているので、こういったゴールに関わるプレーを増やしていきたい。そのための第1歩を踏み出せたのは良かったと思います」

 筑波大の特別指定選手時代も含めて5シーズン在籍した清水エスパルスから、今年やってきた。印象的だったのが、囲み取材の場で淀みなく話し、かつ的確な語彙で自らの思考を口にしていたことである。ピッチで起きている現象に対する解析度が高く、それを言葉で説明するのに秀でている。いわゆる、「言語化」が上手いタイプなのだ。

 近年、世間でも「言語化」という用語を聞く機会も多くなってきていると思うが、サッカーにおける「言語化」とは、ピッチで起きた出来事を言葉に変換する作業ということになるだろう。もちろんサッカーは瞬間、瞬間で問われる感覚的なスポーツだが、感覚を言葉に変えて頭の中で整理しておくことで、似たシチュエーションでの再現性が高まりやすくなる。自分なりの言葉に整理できていると、チームメートとも議論が深まりやすくなるのは言うまでも無い。さらにいうと、試合で起きている出来事を丁寧に解説してくれているので、試合後に取材する側も理解に助けられるので、実にありがたい存在だ。

 ある日の練習後、言語化の上手さについて尋ねてみた。

 山原は「あまり自分の中で練習したとかはないんですけど」と前置きした上で、自身の言語化に関する背景を説明してくれた。

「中高がJFAアカデミー福島で『コミュニケーションスキル』という授業をやっていたんです。だから人と喋る時に話す順番とか話し方でそういうのは大きかったのかもしれません。中学1年生からやってたので、それは今に生きてるかなと思います」

 筑波大出身である彼の2学年先輩には三笘薫がいた。三笘も頭の回転が早く、質問に対する言語化が鮮やかなタイプである。なので、筑波大の経験が大きいのではないかと見立てていたのだが、そうではなかった。JFAアカデミー福島での教育にあったというわけだ。中高時代に自らの考えを整理し、他者に伝えるトレーニングを積んできた経験が、このクレバーさを支えているというわけだ。

 開幕前には、味方とのコンビネーションの構築において、練習後の対話で細かな感覚を一つひとつ「答え合わせ」しているとも明かしていた。

「やっぱり喋らないとわからない部分もある。喋って解決できるっていうのは、1番簡単ではありますから」

感覚を感覚のままでは終わらせない。言葉という共通言語で味方と共有するのである。

「細かい話ですけど、『さっきのプレー、どう思ってましたか』とか『もうちょっとこういう風に』とか『逆になんかありますか?』とか。サッカーなのでボールを通じて分かるとこもありますけど、喋るっていう簡単なコミュニケーションっていうものがあるんだったら、そうやって理解していく方がいいですから」

 初ゴールを記録した試合後、山原のアシストに繋がるリターンパスをした脇坂に聞くと、山原からのパススピードが絶妙だったと絶賛している。

「レオンのパススピードが、強すぎず、弱すぎずのパスで、僕が相手を見る時間を与えてくれました。あれが強すぎると、コントロールしてからまた展開となってしまいますけど、僕が相手を見れる時間を使いながら、レオンが前進してくれた。あのシーンに関してはレオンの最初のパスが良かったなと思います」

 例えば味方の足元に強くて速いパスを出す時はその場でターンして欲しいというメッセージがある。逆に、ゆっくりとした弱いパスを出すことで、相手を食いつかせながらダイレクトで戻して欲しいというメッセージを込めることもある。この時の山原の何気ないワンツーは、受け手の脇坂に「周囲を観察する時間」をプレゼントするための、計算し尽くされたスピードだったというわけだ。出し手の意図と受け手の感覚が一致したとき、サッカーでは何かが起きやすい。山原が日頃から行っている言語化によるすり合わせが、あのコンビネーションを生んだとも言える。

 それでいて、論理一辺倒ではないところも彼の魅力だ。「言語化」はプレーの再現性を高めるための重要な作業だが、こうも話していた。

「最近気づいてるのは、直感も大事だなっていうこと。やっぱり打てる時にシュートを打つ。いい意味で、その勢いの判断で打てた方がいい時もあるし、考えてプレーするだけと、直感だけでプレーするっていうのは、どっちかだけに偏るっていうのはよくないと思うんです」

 言葉で整理された土台があるからこそ、その上で解き放たれる「直感」の鋭さが増す。あの移籍後初ゴールは、取り組んでいたシュート技術と、ここぞという場面の閃きが結実したものだったのかもしれない。

 サイドを駆け上がる山原怜音に、今後も注目である。

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いしかわごう

いしかわ・ごう/北海道出身。大学卒業後、スカパー!の番組スタッフを経て、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の担当記者として活動。現在はフリーランスとして川崎フロンターレを取材し、専門誌を中心に寄稿。著書に『将棋でサッカーが面白くなる本』(朝日新聞出版)、『川崎フロンターレあるある』(TOブックス)など。将棋はアマ三段(日本将棋連盟三段免状所有)。

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