鹿島が両立した「競争と結束」 8年ぶりの悲願…常勝軍団を突き動かす飢餓感「勝ったときでも」

鈴木満氏が語るリーグ優勝の条件

 鈴木満という男は、鹿島アントラーズの「勝利」の味を誰よりも知っている。国内三大タイトル獲得数は通算20冠以上。そのすべてに関わってきた強化のプロフェッショナルだ。だが、そんな彼にとっても、2025年のリーグ優勝は特別な味がしたという。それは、長年彼の心に刺さっていた「棘(トラウマ)」が、ようやく抜けた瞬間でもあったからだ。(取材・文=森雅史/全5回の4回目)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 ◇   ◇   ◇ 

「2017年に負けたじゃないですか。あの試合がずっと心に引っかかっていた」

 鈴木氏が振り返ったのは2017年シーズンの最終節。首位でアウェイ戦を迎えた鹿島は、勝てば優勝という状況でジュビロ磐田と引き分け、川崎フロンターレに得失点差での逆転優勝を許した。そのとき以来、鹿島はリーグタイトルから遠ざかる。「あのとき勝っていれば」という悔恨は、クラブ全体を覆う重い影となっていた。

「あのときのことは、リーグで優勝しない限り払拭できないというのをずっと思っていました。だから2025年に優勝してくれたことで、なんか心に引っかかっていた棘が取れたっていう感じになりましたね」

 8年越しの悲願。奇しくも、その優勝をもたらしたのは、2017年に川崎の監督に就任すると、その後の川崎の黄金時代を築いた鬼木達監督だった。

「鬼木監督に奈落の底に落とされたのに、(今回の優勝は)本当に巡り合わせというか」。鈴木氏は冗談めかして笑ったが、その言葉には、フットボールの神様が書いた筋書きへの畏敬の念すら感じられた。

 では、なぜ2025年の鹿島は勝てたのか。鈴木氏の分析は明快だ。「競争」と「結束」の融合である。

「強いチームは、『競争』と『結束』が両立しているんですよ。競争もなければいけない。試合に出るためにはチームメイトと競争しなければいけないし、勝つためにはチームメイト同士で結束しなければいけない」

 言葉にするのは簡単だが、これを実現するのは至難の業だ。今季の鹿島は、怪我人が続出するアクシデントに見舞われた。だが、中田浩二フットボールダイレクターと鬼木監督が密にコミュニケーションを取り、「今、どのポジションにどんな選手が必要か」をシンクロさせて補強を行ったと鈴木氏は振り返る。

「補強っていうのも、人数増やせばいいってことじゃない。どういう立場のどういう選手が必要なのか(の判断が必要)」。中田FDの的確な補強が適切な競争を生み、それがチーム内の不協和音ではなく、一体感(結束)へと繋がったことを優勝の理由として挙げた。

 そしてあと一歩で優勝を逃した2017年の体制のままではなく、痛みや変化を恐れずに進化し続けた結果が、この優勝だった。鹿島が変化し続けてきた証として、「(運営会社の)全社長がタイトルを獲っている」ことを挙げた。

「僕たちがやってきたこと、サッカー界の環境も全体の関係もいろいろ、どんどん変わっています。同じことをやっていてもなかなか通用しないという時代になってきているのは事実。その流れにうまく適応していくのが大事。「時代の流れを取り入れてやっていかないと、やっぱり取り残されます。『これをやっておけば勝てる』という思いは全然ありません。勝ったときでも『もうちょっとうまくやればもう少し楽に行けた』『もっと圧倒できた』という思いがあるから。勝ったときに『これでよかったんだ』というより、『もっと何かやり方があったんじゃないか』という感覚なんです」。

 リーグを制してもなお続く飢餓感。その飽くなき向上心が王者を常に前に動かし続けている。

「昨年はよく本当に勝ってくれました。もう、なんか本当にドツボにはまりそうだったので(笑)」

 安堵の表情を見せた鈴木氏。その視線はすでに、棘の抜けた後の、新しい鹿島の未来に向けられているようだった。

(森雅史 / Masafumi Mori)



page 1/1

森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング