日本代表に懸念「8人でも足りない」 Jリーグで増える“頭脳”…重要になってきた分析

日本代表の懸念となる分析の重要性【写真:徳原隆元】
日本代表の懸念となる分析の重要性【写真:徳原隆元】

W杯本番に向けて分析チームのさらなる増強、予算の確保を検討しておくべき

 2026シーズン、Jリーグのピッチサイドにはこれまで以上の“ある変化”が起きているはずだ。

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 2024シーズンからJリーグは「チームスタッフの役割の多様化(コーチング領域の細分化、複数言語の通訳対応)」を理由にベンチ入りスタッフをそれまでの7人から9人に増やした。確かに複数の通訳をベンチに座らせる必要が生じているクラブもあるが、2025年にはさらに変化が起きている。

 多くのチームでは監督、コーチ、GKコーチ、フィジカルコーチ、コンディショニングスタッフ、アスレティックトレーナー、ドクター、通訳らがベンチに座る。そんななかで、たとえば鹿島アントラーズ、セレッソ大阪、清水エスパルスなどはタブレットやPCを携え眼光鋭く戦況を見つめる「テクニカルスタッフ」がベンチ入りしているのだ。

 試合のさまざまな事象を分析するテクニカルスタッフは、これまで報道陣の横に設けられているチームスタッフ席で試合を観察し、無線などを通じてベンチに分析結果を伝えていた。だが、無線で伝えるだけでは、戦況の変化に対応しきれなくなってきているのだ。

「テクニカルスタッフ」「アナリスト」「分析担当」と呼ばれる、現代サッカーにおける“頭脳”たちは、今シーズン、Jリーグの見どころの一つと言っていい。

 各クラブの体制を見ると、その本気度が伝わってくる。昇格以来上位に付けるFC町田ゼルビアは、現場に4人の分析担当を配置している。徹底した相手のスカウティングと自チームの修正能力の高さは、この数に裏打ちされている。

 FC東京も手厚い。ベンチに入る現場担当が2人、現場には出ずに映像分析などを行う担当が2人、さらにそれらを統括する人間が1人という5人体制を敷く。東京ヴェルディは分析担当こそ2人だが、コーチには日本代表で長年テクニカルスタッフを務めた和田一郎氏が入閣している。代表レベルの“眼”がベンチにある強みは計り知れない。

 取材現場でも、その影響力は肌で感じるようになった。試合後、監督や選手から「分析通りでした」「スカウティングにあった形だった」という言葉を聞く機会が格段に増えたのだ。

 観客から見ていて「お互いに攻めあぐねている」「手詰まりになっている」と感じる試合があるかもしれない。ところが、それは決して停滞ではない。互いの分析官が相手の長所を消し合い、弱点をカバーし合った結果、盤上が膠着しているのだ。高度な“分析戦”の結果が今のJリーグにはあふれている。

 この“分析の重要性”は、日本代表においてより切実な課題だ。

 森保一監督率いる日本代表は、2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)の際、4人のテクニカルスタッフを帯同させていたが、大会後一時はその数を2人に減らしていた。しかし、すぐに山本昌邦ナショナルチームダイレクターが「これでは無理だ」と、再び4人体制に戻した経緯がある。

 今の代表チームにおける分析官の仕事は膨大だ。対戦相手の分析はもちろん、トレーニングのなかで日本代表選手たちのプレー映像をチェックし、管理しなければならない。2人では物理的に回らないのが現実だった。

 2024年カタール・アジアカップでは、W杯本大会を見据えたシミュレーションとして、分析スタッフを8人、その下に多数の大学生を配置して臨んだ。これだけの人数がいれば万全かと思われたが、ここへ来て新たな懸念が浮上している。「8人でも足りないのではないか」という問いだ。

 理由は明白だ。アジア杯とW杯では、相手のレベルも、試合の密度も次元が違う。アジアの戦いでは、日本がボールを保持する時間が長く、相手が引いて守るケースが多い。しかしW杯で対峙するのは世界の強豪たちだ。プレスは速く、パスコースは限定される。より丁寧な分析がなされなければいけない。

 さらに考えなければいけないのは、グループリーグを突破するときのパターンが多いことだ。アジア杯では各グループ2位までと、3位の6チームのうち上位4チームが決勝トーナメントに進出できた。

 しかし、そもそもアジア杯で日本代表がグループの3位になることは考えにくく、グループリーグは6グループしかなかったので決勝トーナメント進出時に考えておくべき相手チームの数も限られていた。一方W杯では日本が3位になってトーナメント進出する場合も考えなければならないはずだし、全部で12グループあるので分析しておくべきチームは膨大になる。

 W杯でベスト8、そしてその先を目指すのであれば、ピッチ上の選手層だけでなく、ベンチ裏の“頭脳の層”も世界最高峰でなければならない。日本サッカー協会は、W杯本番に向けて分析チームのさらなる増強、予算の確保を今のうちから検討しておくべきだ。現代サッカーにおいて、情報は武器であり、分析官は勝敗を左右する鍵を握っている。ここを出し惜しみして勝てるほど、世界は甘くない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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