Jリーグ若手流出に嘆きの声「もうこの国にいたくない」 来日20年欧州ジャーナリストが語る懸念と提言【インタビュー】

スイス出身の写真家リオネル・ピゲ氏が日本サッカー発展の要因を分析
2003年の来日後、ファンとしてだけでなく写真家・ジャーナリストとしてもこの国のサッカーシーンを追い続けてきたスイス出身のリオネル・ピゲ氏。Jリーグ自体も開幕して今年で32年と歴史を紡いできたなか、同氏はその進化と課題をどう見ているのか。率直な意見を語ってもらった。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全2回の2回目)
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来日以前に、ピゲ氏は1990年代後半から2000年代中盤にかけて欧州で活躍した中田英寿や中村俊輔などの海外組パイオニアの存在を通し、日本サッカーに強い関心を抱いていたという。現在のJリーグについては「ファンタスティック」と称賛する一方、03年に大阪へと移り住みJリーグを観戦した際に抱いた印象は、期待からかけ離れていた。
「来日当初、この国のプロサッカーのレベルは率直に言って厳しいと思ったよ。それまでプレミアリーグやUEFAチャンピオンズリーグといった、欧州サッカーを観ることに慣れていたことも理由としてあっただろうね。もちろん、いくつかのJリーグ強豪クラブはそれ相応のレベルにあるとは感じていた。けれど、弱小クラブは本当に力がないと思った」
とはいえ、この20年以上もの間で代表チームがワールドカップ常連国となるなど、日本サッカーは大きな発展を遂げた。ここに国内リーグを含めたさまざまな成長要因があったことは明白だが、とりわけ何が大きな貢献を果たしたと考えるのか。ピゲ氏がまず語ったのは、スタジアムの存在だ。
「サッカー専用スタジアムを造ったことは日本サッカーの発展に大きく寄与していると思う。関西ではガンバ大阪が日本屈指と言える美しい本拠地を構えている。それだけでなく京都や神戸、北九州もいい。こうした美しい専用スタジアムを造ったことがより多くの人を惹きつけ、足を運びたくなるきっかけとなったんだ。そうした強いファンベースの下、サッカー人気が野球に追い付いた」
さらに、ピゲ氏は選手の育成にも言及。日本サッカー界における「大きな貢献を果たした」人物として、A代表だけでなくU-20代表や五輪代表も兼任したフィリップ・トルシエ元日本代表監督の名前を挙げた。
「彼が示したのは、良いチームを構築したいなら、まずは適切な方法の下でユースから始めなければいけないという方向性。そして、ユースとトップチームが同じシステムを共有し、2つが上手く協同すれば、若い選手がトップに上がった際に快適にプレーでき、高いクオリティーを維持できるということだ」

若手流出と組織の“バランス”
Jリーグが世界的にも珍しい成長曲線を描いてきたとはいえ、さらなる発展に向けては改善すべき点は当然残されているだろう。「もちろん課題はたくさんあるよ」とピゲ氏。なかでも苦言を強く呈するのが、有望な若手選手の流出が続く現状についてだ。
「クラブによってそれぞれ事情があるとはいえ、育ってきた選手を手放してしまうのが早い。それゆえに、競争力を保てなくなる。川崎フロンターレなんてその最たる例だ。Jリーグを2連覇できるほど屈指の強豪になったと思ったら、三笘薫や守田英正、谷口彰悟が次々と移籍してチームは弱体化してしまった。
少しでも長くこうした素晴らしい選手たちを引き留められたら、現在に至るまでの状況は違っただろう。才能ある選手をあまりにも早い段階で、しかも安い移籍金で手放してしまうのは問題だ。その後にチームをどう作り上げろというのかと思ってしまうね」
この問題に関して、ピゲ氏は外国人監督らから苦しい現場の声を耳にしてきた。「チームを殺すつもりか」と若手有望株の慰留を訴えても願いが叶わず、「もうこの国にはいたくない」と言い残し去ってしまった指揮官もいたという。
では、チームの編成に関してより大きな権限を監督に与えるべきなのか。「権限を与えすぎるのは正しくない。大切なのはバランスだ」とピゲ氏。チームのあるべき姿について、こう持論を展開する。
「正しいバランスこそクラブが成功するためのカギになる。つまり、それぞれの担当を配置するってことだね。トレーニング、チームシステム、選手、それぞれに関係する責任者を。選手の補強や監督の招聘などを担当するスポーティングダイレクターの存在も重要だ。コーチ陣やダイレクターらの間で良い関係性が保たれていれば、物事は正しい方向に進んでいける。
また、クラブは一枚岩にならなければいけなくて、複数の組織が内側に存在するようではいけない。過去にJリーグでチーム内が2つの組織に分かれて、下のカテゴリーへと落ちていくクラブを見てきた。ただ、組織内部を変革するとその後は持ち直したよ。それくらい、クラブが1つになることは重要なんだ」
日本の若手選手に対するニーズが欧州を中心に高まる一方、Jリーグで顔となるべき勢いのある選手がいなくなってしまう難しい問題。この国のプロリーグがより魅力的なものとなるべく、ピゲ氏のような海外出身者の見解や提言も踏まえた課題解決への熟考が求められる。
[プロフィール]
リオネル・ピゲ/1980年生まれ、スイス出身。写真家兼ジャーナリスト。2003年にワーキングホリデーで来日し、10年からデータ系サイトでのデータ分析作業を通じてメディアの世界へ。その後、海外向けJリーグ専門媒体「J Soccer Magazine」で執筆を開始し、スポーツ総合媒体「Inside Sports Japan」でフォトグラファーの活動も本格的に行うようになった。サッカー以外でも、これまでに2019年のラグビー・ワールドカップをはじめ、アメリカンフットボール、野球、相撲と日本のスポーツシーンを幅広くカバーしている。
(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)