鉄人が脱帽する2人の「化け物」 森保Jに復帰した29歳…4年間変わらなかった“風景”

荒木隼人は今年森保ジャパンでも3試合に出場
2025シーズンで最も充実感を漂わせた選手の一人に、サンフレッチェ広島の荒木隼人があげられる。2度目の優勝を果たしたYBCルヴァンカップ決勝でMVPを獲得し、自身初のJリーグベストイレブンも受賞。広島が臨んだ61もの公式戦で実に56試合に出場した29歳の鉄人が「あの2人は人じゃない。人外の存在というか本当に怪物、化け物なので」と畏敬の念を抱きながら、脱帽した選手たちが広島のチーム内にいた。(取材・文=藤江直人)
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すべての面で充実したシーズンを終えた。関西大学からユース年代を過ごしたサンフレッチェ広島に加入して7年目を終えた荒木隼人は、苦笑いしながら「出場した試合数も多かったので」と今シーズンを位置づける。
9月以降の広島はJ1リーグ戦に加えてYBCルヴァンカップ、天皇杯、そしてAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)を同時進行で戦った唯一のJクラブとなった。ルヴァンカップでは3シーズンぶり2度目の優勝を果たし、リーグ戦は4位でフィニッシュ。天皇杯でもベスト4に勝ち残った。
必然的に公式戦の数も多くなる。その数、実に61試合。3バックの真ん中を主戦場とする荒木はそのうち56試合に出場し、プレータイムの合計はフル出場した場合の85.5%にあたる4721分に到達。さらにルヴァン杯決勝のMVPを獲得し、Jリーグアウォーズでは自身初のベストイレブンにも選出された。
日本代表での戦いに目を移せば、国内組だけの陣容で臨んだ7月の東アジアE-1サッカー選手権で約3年ぶりに森保ジャパンに復帰。香港、韓国両代表戦にフル出場して優勝に貢献すると、9月のアメリカ遠征でもヨーロッパ組が中心を占めるチームに招集され、敗れはしたもののアメリカ代表戦でもフル出場した。
代表戦を合わせたプレータイムは実に5000分近くに達する。怪我ともほぼ無縁だった1年間に及第点を与えながら、それでも荒木は「僕はまだまだ鉄人という部類なので」と意外な前置きとともにこう続けた。
「いやいや、あの2人は人じゃない。人外の存在というか本当に怪物、化け物なので」
自らを鉄人だと褒めた29歳の荒木が、鉄人をはるかに凌駕する存在だと苦笑いしながら脱帽したのが37歳の塩谷司であり、36歳の佐々木翔となる。人間ではない異質な存在や、あるいは人間離れした能力をもつ意味の「人外」という言葉を、敬意を込めて使った理由は塩谷と佐々木が広島で刻み続ける軌跡にある。
塩谷の公式戦出場試合数は56で、総プレータイムは4549分だった。佐々木に至ってはキャプテンの重責を担いながら前者で57を、後者では5042分をそれぞれ数えている。荒木をはさんで右に塩谷、左には佐々木が並ぶ3バックで先発した公式戦は今シーズンだけで41試合。J1リーグでは最少の28失点に抑えた中で、2人のすごさを目の当たりにしてきた。
「だっておかしいですよ。あの人たちはもう35歳を超えているんですよ。それなのに、あれだけのパフォーマンスを見せているんですからね。シオくんはちょっと海外へ行っていましたけど、ショウくんは僕が1年目のキャリアをスタートさせたときからずっとバリバリやっていますからね。本当におかしいですよ」
脳裏に浮かんでくるのは、今シーズン限りで退団したドイツ出身のミヒャエル・スキッベ監督(現・ヴィッセル神戸監督)の初陣。サガン鳥栖とスコアレスで引き分けた2022シーズンの開幕戦で、荒木は3バックの真ん中を、佐々木は左を、塩谷はボランチでそれぞれ先発フル出場していた。荒木が続ける。
「スキッベさんが来た最初の試合で、シオくん(塩谷)もショウくん(佐々木)も2人とも出ていましたからね。あれから4年間がたったのに、まだ普通に試合に出ているだけでなく、まだまだやりそうな感じがあるじゃないですか。見えていないところでも(努力を)続けているからこそ続けられていると思うし、その意味でもあの2人に追いつき、さらに追い越していけるように頑張らないといけないといつも思っています」
荒木も8月に年齢をひとつ重ねた。来年には30歳になり、中堅からベテランと呼ばれる域へと足を踏み入れようとしているなかで、キャリアで最も充実したシーズンを送れた。自身が積み重ねてきた努力に加えて、常にハイパフォーマンスを演じる2人のベテランから受け続けてきた刺激が、成長に寄与していると言っていい。
今シーズンを振り返れば、ヴィッセル神戸にクリーンシートで快勝した2月8日のFUJIFILM SUPER CUPに始まり、上海申花(中国)に同じくクリーンシートで勝利した12月10日のACLEリーグステージEAST第6節で幕を閉じた。前者でダメ押しの2点目を、後者で値千金の決勝点をともに頭で決めたのは荒木だった。
「最後の最後に中野(就斗)のゴール数に追いつけたのはよかったですね。昨シーズンは負けてしまいましたけど、今シーズンはともに7得点で引き分けです。僕にとってはキャリアハイのゴール数です」
出場試合数が58を数え、自身や塩谷、そして佐々木を上回る最多を記録したプロ3年目の25歳、中野就斗へ対抗心を燃やしながら苦笑した荒木は、306日間におよんだ2025シーズンにあらためて言及した。
「生意気を言うようですけど、本当に充実したシーズンだったからこそ、もっともっとやれる、という思いも逆に増しました。来シーズンは新しい監督が求めるプレーをしっかりと理解しながらそういう思いを体現して、自分に対してもっともっと厳しく取り組みながら、もう一度、代表にいけるチャンスをうかがいたい」
塩谷や佐々木とともに、スキッベ前監督から大きな信頼を寄せられ続けた4年間を荒木はこう振り返る。
「ミスを恐れなくていい、ミスをしてもチームで助け合えばいいと常に言われてきたなかで、ポジティブに、楽しくサッカーをする重要性をあらためて教えてもらいました。本当の感謝の思いしかないです」
ドイツとポーランド両国の国籍をもち、ブンデスリーガ・ライプツィヒのアシスタントコーチを務めていた38歳のバルトシュ・ガウル氏が新監督に就く来シーズン。荒木は2人の大ベテランの背中を羅針盤にすえ、中野をはじめとする後輩たちの成長を刺激のひとつに加えながら、充実したシーズンのさらに先を追い求めていく。
(藤江直人 / Fujie Naoto)

藤江直人
ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。





















