森保監督の嗅覚…堂安も驚き「意図を感じた」 王国撃破で際立った日本代表のキーマン

シャドー伊東純也が躍動【写真:徳原隆元】
シャドー伊東純也が躍動【写真:徳原隆元】

シャドー伊東純也が躍動、W杯に向けて必要不可欠な人材だと再確認できた

 日本代表が過去13戦未勝利だったサッカー王国・ブラジルを撃破した10月14日のゲーム(東京スタジアム)から数日が経過したが、今も反響は続いている。(取材・文=元川悦子)

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 相手がエデル・ミリトン(レアル・マドリード)とガブリエウ・マガリャンイス(アーセナル)の両センターバック(CB)ら主力級数人を温存したとはいえ、やはりブラジルはブラジルだ。後半から一気にギアを上げて3得点を叩き出した日本を前向きに評価していいだろう。

 そのキーマンとなったのが、2-1になった後の後半9分、久保建英(レアル・ソシエダ)に代わって登場した伊東純也(ヘンク)である。

 この時点では堂安律(フランクフルト)が残っていたため、これまでの流れであれば、堂安がシャドーに動いて、伊東が右ウイングバック(WB)に入るというのが通例だった。

 しかしながら、森保一監督は堂安をそのまま右WBに置いて、伊東を右シャドーに起用した。

「僕がWBのままで、純也君をシャドーに置いたのも、ちょっと意図を感じましたし。純也くんを走らせたいのかなとか。僕が中でやるよりも、僕は外で起点にはなれていたので。そのへんの嗅覚はすごいなと思いました」と背番号10も驚き半分にコメントしていたが、指揮官の思惑通り、堂安と伊東が絡んで右からの打開力が一気に上がったのだ。

 最たるものが、後半17分の同点弾。右に開いた渡辺剛(フェイエノールト)のパスを伊東が中寄りの位置で受け、右外に開いていた堂安に預け、一気に縦に侵入。そこから完璧なクロスを上げ、中村敬斗(スタッド・ランス)のゴールを演出したのである。

 さらに伊東は上田綺世(フェイエノールト)の逆転弾につながった直前の場面で、上田に絶妙のクロスを送っている。背番号18のヘディングシュートは惜しくもクロスバーを直撃。そのまま左CKとなったが、このキックも伊東が蹴り、逆転弾がお膳立てした。背番号14のプレー精度の高さ、ここ一番の“仕事力”を誰もが痛感させられたに違いない。

 伊東のシャドーというのは、2022年カタールワールドカップ(W杯)ドイツ戦の終盤など、過去に何度かトライしているが、森保監督が改めて確信を持ったのは、9月のアメリカ戦(コロンバス)ではないか。

 ご存じの通り、このときは鈴木唯人(フライブルク)と伊東が左右のシャドーを形成。右WBには望月ヘンリー海輝(町田)が陣取る形だったが、伊東自身が中に絞って望月の上がりを引き出すなど、非常に賢いプレーぶりが際立った。

 鈴木唯人がミスパスを拾ってスルーパスを出した前半36分のシーンでは、伊東が斜めに走って決定機を演出。シュートは決まらなかったものの、彼らしい鋭さが出ていた。前半終了間際にも自ら右サイドをドリブルで打開。速さと効果的なポジショニングが大いに光った。

 この日は代表キャップ数が少ない面々が陣取ったため、チーム全体がスムーズな連動を欠いたものの、伊東だけは圧倒的な存在感を示していたと言っていい。その多彩な仕事ぶりを見て、森保監督は「堂安と伊東を右で組ませたら面白い」と感じたのかもしれない。

 これまで日本の右サイドは堂安と久保という組み合わせがメインだったが、伊東を柔軟に使えることがハッキリしたのは大きな収穫だ。もともと彼は両WBに両シャドー、FWもできる攻撃のマルチロール。今の代表ではここまで幅広いタスクを自在にこなせるアタッカーはいないだけに、伊東の存在価値が極めて大きい。それを今回のブラジル戦で再確認できたのは、日本代表にとっても重要なことだった。

 とはいえ、2017年のE-1選手権(東京スタジアム)で代表デビューし、代表キャップ数66を数える伊東も32歳。年々、怪我が増えている印象もある。

 スタッド・ランスでプレーしていた昨季終盤には足首を負傷。3か月以上も痛みが引かず、7月末のスタッド・ランスのジャパンツアーで来日した際も、まともにプレーできる状態ではなかった。

 そのコンディションやパフォーマンス維持、向上を考えて、彼は8月に慣れ親しんだヘンクに復帰。怪我の治療を優先しつつ、休みも入れながら状態を引き上げていた。

 9月の代表ウィークでは回復傾向が確認でき、今回の10月のパラグアイ(吹田)ブラジル2連戦では明らかに状態がよくなっていた。それは2試合3アシストという結果にも表れた。「伊東純也は2026年北中米W杯で躍進を目指す森保ジャパンに不可欠」という印象を改めて残したのは間違いない。

 だからこそ、ブラジル戦で負った右足の怪我の具合が気になるところ。ハムストリングの肉離れだと見られるが、本人は15日に欧州へ戻る際、空港で明るい表情を見せていたというだけに、そこまでの重傷ではないのかもしれない。ただ、当面は回復に専念することになるはずだ。

 11月の代表ウィークは18日のボリビア戦(東京・国立)は決定。14日の豊田でのゲームはガーナが有力と言われている。ボリビアは2026年3月のW杯大陸間プレーオフ進出が決まっており、ガーナは先日切符をつかんだばかり。アフリカ勢との対戦は第2次森保ジャパン発足移行は皆無。ゆえに、伊東を含めた主力級を数多く集めて戦っておきたいところではあるが、無理する局面ではない。今はとにかく8か月後の本番に向けて最高のコンディションを作り上げること。それだけにフォーカスしてほしいところだ。

 33歳で迎えるW杯を“集大成”と位置づけている本人もそう考えているのではないか。日本が史上初のベスト8入りを果たし、もっと高い領域に辿り着こうと思うなら、攻撃の全ポジションを高いレベルでこなしてくれる伊東純也は絶対に必要な人材だ。その重要性を今一度、強く理解できたことが、10月2連戦の1つの大きな成果だったと言っていい。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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