W杯8強に何が足りない? ドイツ撃破も…森保J分析官が見た3年前のリアル「想定を上回られた」

JFAで各年代のアナリストを経験…佐藤孝大氏が見た森保ジャパン
サッカーのチームは選手、監督、コーチだけで構成されているものではない。数多くのスタッフがそれぞれの立場からチームを支え続けている。日本代表で長くアナリストとして活動し、現在はブンデスリーガ2部のキールで奮闘している佐藤孝大氏に尋ねてみた。(取材・文=中野吉之伴/全3回の第2回目)
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「僕がA代表に関わった期間は短いんです。最初はU-20とかが多かったですね。影山(雅永)さん(JFA技術委員長)と一緒でした。ただあの時はU-20ワールドカップが中止になったりいろいろありました。そのあとで東京オリンピックのチームに帯同させてもらいました。森保さんとはこの時から一緒です。冨樫剛一監督(現マリノスユース監督)のU-20代表に立ち上げから関わったりした後、カタールW杯に向けてアナリストを補充しなきゃいけないっていうところで、A代表の方に関わらせてもらいました」
日本代表が持つチーム力、まとまりの素晴らしさは世界的にも評価が高い。カタールW杯ではドイツ、スペインを下してのグループリーグ突破を果たし、世界から称賛を受けたが、佐藤はそうした中に実際にいて、どのように感じていたのだろうか?
「スタッフの一人として見た時に、代表チームにあるハーモニーというか、『みんなで一丸に!』という空気感がすごくあったなと思います。特にベテラン選手を中心にみんなでチームとしてまとまろうっていう動きは、やっぱり素晴らしいなっていうふうに感じていました。よく森保さんが『国民に元気を与えよう』『勇気を与えよう』ということを言っていましたが、そっくりそのままじゃないですけど、そういう言葉は選手たちからも日頃から出ていました。みんながまとまりを作ろうというのは、こっちに来て過ごしてみても、日本人が持つ国民性の大きな特徴として強く感じますね」
当時グループリーグで対戦したドイツは、過去の日本代表の試合を分析した結果、対策としてシステムのかみ合わせで生じるギャップをついたら、対応が追いつかずに主導権を握れるという目星をつけていた。実際に前半はそんなドイツの狙い通りの展開を許し、何度も決定機を許す苦しい流れとなってしまう。それでも辛抱強く粘りながら前半を1失点で切り抜けた日本は、後半これまで見せたことが一度もなかったオフェンシブな3バック布陣で前線からどんどん相手を追い込む策がハマり、歴史的な逆転勝利を挙げた。
日本側はこのドイツ戦にどのような分析がされていたのだろうか。
カタールW杯、劇的勝利に日本の分析は?「想定を上回られてしまった」
「個人的な振り返りになりますが、ドイツはうまく後ろから3選手でボールを回したりとか、(トーマス)ミュラーがこちらの守備がハマりにくいところへ顔を出して、嫌なポジション取ったりする、というのは分かっていました。森保さんたちを含めてドイツ戦に向けて準備していた部分はもちろんありましたが、それでも前半のあの戦いは、僕らの想定を上回られてしまったっていう部分もあったとは思います。だからこそ森保さんはハーフタイムにああいう決断をしたのかなと」
劇的な勝利でW杯優勝経験国を撃破。悲願となるベスト8進出の可能性がぐっと膨らんだと思われたが、それでも次の壁は堅牢だった。何かがまだ足らないのだろうか。何かがまだ違うのだろうか。そんな思いにさいなまれた人も少なくはないだろう。佐藤が日本を離れて、ドイツへ渡る決意をしたのも、そうだ。
「ワールドカップでもそうですが、他国に行った時に全く違う文化がそこにはあります。日本みたいに綺麗なサッカーしても、結局最後に彼らに上回られてしまう部分を感じていたんです。だから自分自身が力をつけなきゃって。選手が何度も口にしている『ヨーロッパに行って他の文化を知る』『その中で戦う』というのをやらなきゃって。このままだと、自分が力をつけて貢献するのが足らなくなってくるかなっていうのを感じました。だから、もうヨーロッパに行くと決めたんです」
昨季、キールで迎えた舞台はブンデスリーガ。同チームには町野修斗(現ボルシアMG)がいたし、対戦相手の多くには日本代表選手がいる。それぞれがそれぞれの居場所で必死に戦うのを間近で見ていた。キール対ボルシアMG後には、板倉滉と話しこむ姿があった。佐藤は笑顔で振り返る。
「滉とは東京オリンピックの時もそうですし、いろんなところでずっと一緒です。堂安律もそうですね。あと三笘薫は、僕が筑波大を出て、筑波大サッカー部でアシスタントコーチやっている時に、一年生で入ってきた選手なんですよね。その頃から知っている関係でもあるので、いろんな話をしています。僕はアナリストという立場でもあるので、コーチングスタッフとはまた違ったコミュニケーションの取り方ができるなと思いますし、そうしたアプローチでも選手の支えになれたらうれしいですね」
歴代の日本人が積み上げた“信頼”「一番強く感じている」
日本でイメージしていたことが実際にドイツへ来ると想像以上だったと感じることはたくさんあるだろう。佐藤もブンデスリーガクラブで働くと、これまでに礎を築いてきた日本人選手の影響力の大きさを肌で感じることがとても多いのだという。
「一番強く感じている部分ですね。選手だったら長谷部誠さん、香川真司さん、岡崎慎司さん、遠藤航さんだったり、あと内田篤人さんとはJFAでは仕事で一緒だったんですけど、本当にそういう日本人選手やスタッフの方々が、日本人ブランドを時間をかけて積み上げてきてくれたからからこそ、僕も最終的に快く受け入れてもらえたなっていうのを本当に強く感じています。これまでに身を削って戦ってきてくれた日本人の方たちがたくさんいた。キールのスタッフも日本人選手に対して非常にリスペクトしていますし、『長谷部すげえな』『遠藤はどこまでいくんだ?』みたいな話をよくしているんです。本当に日本サッカーの積み上げを強く感じています」
長谷部はフランクフルトでプロフェッショナルさと同意語にされるほど絶賛されていたし、ドルトムントを2冠に導いた香川やクラブ史上最高のCLベスト4進出メンバーの内田は、いまもファンから最大級の愛を受けている。2年連続2桁ゴールをあげた岡崎はマインツで別格の存在だし、シュツットガルトを劇的な残留に導いた遠藤は伝説のキャプテンなのだ。他にも数多くの日本人選手が残してきた印象は、ポジティブなものがとても多い。彼らみんなの足跡がこれからの世代への大きな礎となっているのだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。




















