リーグ屈指のボランチに君臨「自分しかできない」 24歳日本人が目指すべき姿「自分の今の課題」

マインツで2年目を戦う佐野海舟【写真:picture alliance/アフロ】
マインツで2年目を戦う佐野海舟【写真:picture alliance/アフロ】

ドイツで2シーズン目を迎えた佐野海舟

 昨シーズンのマインツは、「残留争いが舞台になる」と予想する識者が少なくない中、一時はCL出場権争いにも顔を出すほどの勢いを見せた。クラブとしての規模や立ち位置から考えると、6位という結果は想像以上の大健闘になる。ブンデスリーガ1年目の佐野海舟は、そんなマインツで右肩上がりに評価を高め、ブンデスきってのボランチとしての評価を手にするようになる。

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 迎えた2シーズン目、佐野はマインツでどんなプレーを見せているのだろうか。ドイツカップ1回戦で2部ドレスデン相手に辛勝ながら勝ち上がり、ヨーロッパカンファレンスリーグのプレーオフではローゼンベルグ(デンマーク)に粘り強い戦いでしっかりと勝ち切った。ブンデスリーガもその調子で好スタートを切りたいところだったが、3試合で1分け2敗と勢いに乗れない。

 3節ライプツィヒ戦では40分にヨハン・バカヨコに個人技からゴールを奪われると、その後攻勢を仕掛けるものの決定機をなかなか作れず、そのまま0-1で敗れている。

 試合後には主軸のドイツ代表MFナディム・アミリが、思わず「ラストパスとゲーム理解が足らない。誰もゴールを決めたくないかのような感じさえした」とコメントするなどピリピリ。そんな中ミックスゾーンで佐野は、今後自分達がどうすべきかについて冷静に試合を振り返っていた。

「攻撃の部分は求められますけど、今日みたいな試合だと(終盤は)センターバックを1枚前線に上げていたりと、なかなか自分が前に行けるような展開でもなかった。与えられた役割の中で自分ができることを、その時の状況を見て全力でやることが大事だなと」

 佐野のセカンドボール回収力とボール奪取能力は相変わらずに高い。ライプツィヒはビルドアップから攻撃陣への鋭い縦パスで起点を作ろうとし、序盤はうまく機能していたが、佐野がそこへのパスを警戒し、ポジショニングを調整することで、そこへのパスがほとんど通らなくなっていった。後半は一人でアンカーを務めていたが、それでもセカンドボールを拾う頻度が変わらないのはさすがだ。

 また佐野の良さはボールをカットすることだけではなく、そのボールをそのまま味方へ繋げることができるところだ。一度ダイレクトで前線にパスを送り、そのまま足を止めずにうまくペナルティエリア内に走りこむシーンがあった。仲間のクロスは届かなかったが、ゴール前に飛び込むタイミングとコース取りには確かに成長の跡を見せる。

「前向きな動き出しがいいときもあったけど、(流れが)悪いときは少ないというのが現状なので、そういう動きをどんどん増やしていきながら、相手を押し込んで、そこから何ができるかが課題だと思います」

失点シーンで見えた課題

 攻撃への関与とは必ずしもシュートチャンスに絡むことだけではない。ライプツィヒ戦では前半しばらくボールを持っても慌てて前線にロングボールを蹴ってしまったりと、ちぐはぐな展開が続いていた。

 そうした様子を見て、佐野が必死に落ち着けようと味方にメッセージを送り、丁寧にパスを引き出す動きを繰り返していたのが印象的だ。

「そうですね、中盤の間がすごく広かったですし、相手もあそこを狙ってきていたので、自分のところで奪って、そこから素早く攻撃に行くのか、一回落ち着かせるのかというのは、そこにいる自分しかできないと思う。もっともっとやらないといけないなと思います」

 悔しさをにじませたのはやはり失点シーンだ。右サイドでバカヨコがボールを受けた時に、マインツサイドから見たら数的有利の状況。だがカットインしてきた相手に対して、SBとその隣にいた味方選手の対応が遅れてしまう。同タイミングで裏スペースへ抜けだす相手FWの動きを視野の端にとらえた佐野は、一度そちらをカバーしようと一歩動き出していた。味方の対応が遅れていたのを見て、バカヨコへの距離をつめようとしていた佐野だったが、バカヨコはそれよりも早く左足を振り抜き、ゴールを決めた。

 佐野はこのシーンをどのように受け止めたのだろう?

「ああいうところの1発で試合の展開を変えられる選手が、やっぱり上にいくと思います。あそこで防げないのは、自分の今の課題。でも、課題かなと思いますけど、しかたない部分もあるので。次にどうつなげるかが大事かなと」

 昨季までと違い、代表での活動が加わってきたことで、コンディション調整は大きなテーマとなる。時差がある中での長距離移動は、どんな選手をも疲弊させる。そうした行き来がシーズンを通して何度も続くと、コンディションだけではなく、モチベーションを保つのも難しくなったりする。

 佐野はためらわずに即答した。

「いや、モチベーションは別にコントロールするものでもないと思います。コンディションの部分で難しいのは前提だと思うので、その中で自分が何ができるかというのが大切になってくるのかなと思います」

 どんな試合にも、どんな練習にも全力で、どんな課題にも貪欲に。昨季、どれほどいいパフォーマンスを見せた試合後でも、どれほど周囲から高い評価を受けていても、必ず自身の課題への反省のコメントを口にしていた佐野。その姿勢が日々の成長につながっているのだろう。その取り組みは今季も変わらない。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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