神戸練習参加で衝撃…元日本代表に「持っていかれた」 プロ注目の逸材が進学した理由

筑波大の大谷湊斗【写真:安藤隆人】
筑波大の大谷湊斗【写真:安藤隆人】

筑波大の大谷湊斗、酒井高徳に「身体が持っていかれた。そこに凄まじさを感じました」

 9月3日に開幕した大学サッカーの夏の全国大会である第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント。全国各地域の激戦を勝ち抜いてきた32大学が、1回戦から3回戦までシードなしの中1日の一発勝負という過酷なスケジュールの中で、東北の地を熱くする激しい戦いを演じた。ここでは王者にたどり着けなかった破れし者たちのコラムを展開していく。

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 第5回は2回戦で前回準優勝の新潟医療福祉大との「2回戦屈指の好カード」で激闘を演じた末に1-2で敗れた筑波大学の1年生MF大谷湊斗について。日本高校選抜の合宿中に負った怪我で合流が遅れたルーキーが見せたトップ下での才能とは。

「開幕からスタンドで応援するなかで、同じ1年生の(DF布施)克真とか(MF矢田)龍之介が試合に出ている姿を見て、『自分も早く出たい』という気持ちが強かった」

 今年1月に左足首の距骨を骨折し、大学生活はリハビリからのスタートだった。もともと今年の5人のスポーツ推薦組の1年生には大きな期待が集まっていた。というのも、今年4年生になったDF諏訪間幸成(横浜F・マリノス)、安藤寿岐(サガン鳥栖)、MF加藤玄(名古屋グランパス)の3人が既にJリーグ入りし、今年の6月には絶対的エースストライカーの3年生FW内野航太郎もデンマーク1部のブレンビーに羽ばたいて行った。

 主軸が次々といなくなるなか、大谷、布施、矢田、FW山下景司、CB五嶋夏生とともに即戦力の期待を受けており、矢田、布施、山下は関東大学サッカーリーグ1部の開幕戦から出番を得ていた。

 そのなかで出遅れた形となってしまったが、懸命のリハビリを経て6月に復帰をすると、すぐに6月27日のアミノバイタルカップ(総理大臣杯関東予選)でベンチ入り、2日後にはスタメン出場を果たした。さらに7月5日の関東1部・第7節延期分の東海大戦でスタメン出場。開始早々の前半4分にいきなり大学デビュー弾を叩き込むと、同26分にはドリブルから正確なラストパスでMF廣井蘭人のゴールをアシスト。ブランクを感じさせない躍動を見せて2-1の勝利に貢献。チームも前期2位で折り返しとなった。

「総理大臣杯の前にリーグ戦を経験できたのは大きかった。練習試合でも結果を残せていたので、自信を持って臨めました」

 初戦の常葉大戦、トップ下でスタメン出場をすると、前半18分にMF徳永涼のミドルパスに左サイドから抜け出す。ドリブルで一気にペナルティーエリア内に侵入すると、前に出てきたGKを鮮やかなフェイントで交わしてから右足でゴールに突き刺した。さらに同30分にはドリブルで3人を交わしてペナルティーエリア内に侵入し、ファールで倒されてPKを獲得。自ら蹴りに行くが、これはGK宮澤樹のビッグセーブに阻まれた。

 後半32分に交代を告げられるまで、トップ下として攻撃を活性化。続く2回戦の新潟医療福祉大戦でもトップ下でスタメン出場を果たし、果敢なドリブルやワンタッチプレーを見せたが、後半の決定機を決めきれず、後半33分で交代。チームも1-2で敗れた。

「高校はどちらかというとゲームを作るタイプで、得点を取るタイプではなかった。点を取ることが課題だと思っていたなかで、大学ではトップ下というポジションになって、ゴールをより意識をしたらいい形でゴールが奪えるようになった。今はよりゴールに近いポジションの方が自分の良さが出ると思っています」

 志半ばでの敗退となったが、大谷はアタッカーとして確かな手応えを掴んだ。こうして攻撃的なポジションで持ち味をフルに発揮できているのは、高校時代の3年間が大きかった。

 昌平高時代、ボランチとして全体の舵取りをしているなかでバランス感覚とスペースを察知する力、相手の逆を突く力を磨き上げた。さらに高校3年生の5月にJ1・ヴィッセル神戸の練習に参加し、そこでトラップやパスの精度、身体の使い方を学んだ。

「ワンタッチ、ツータッチの練習で芝が濡れてボールがかなり加速するなかでも、ピタリと止めたり、ダイレクトパスを出したり、ハイスピードのなかでのプレーの正確性が凄まじかった。個人的には酒井高徳選手を背負ったシーンがあったのですが、腕の使い方、身体の使い方が強くてうまい。背負っているのに足をねじ込んでくるというか、そのまま身体が持っていかれた。そこに凄まじさを感じました」

 技術と経験を積み重ねていくうちに、「高卒プロではなく、筑波大学でもっと自分を磨きたい」という思いが強くなっていった。

「(2学年先輩であるMF篠田)翼さんが筑波大に行ったのも大きくて、ずっと気になっていました。筑波大の選手を見ると、三笘薫選手を始めとしてサッカーがうまくて、頭がいい選手が多い。徳永涼さんも僕が高校1年生のときに対戦をして、物凄い選手だと思っていたのですが、プロへの選択肢があるなかで筑波大を選んで凄く魅力に感じました。筑波大でもっと自分にフォーカスをしながら、レベルの高い環境で揉まれて成長したいと思いました」

 他のJクラブへの練習参加の可能性もあったが、彼は大学進学を選択した。学ぶ意欲を持って始まった大学生活。リハビリの期間も先輩たちのサッカーに対する高い意識と学ぶ姿勢に大きな刺激をもらい、この選択が間違いなかったことを確信できた。

 復帰をして、関東でも全国でも自らの力を証明できたからこそ、ここからワンランク、ツーランク上のプレークオリティーを手にして、さらに自分の選択を正解にしていくために。大谷の大学サッカーは本格的に幕を開けた。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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