昨季5位→最下位スタート…大きかった“堂安の穴” 日本代表MFの決意「やるしかない」

フライブルクの鈴木唯人【写真:アフロ】
フライブルクの鈴木唯人【写真:アフロ】

最下位スタートのフライブルク、新加入の鈴木唯人「やり続けるしかない」

 昨季5位でフィニッシュしたドイツ1部フライブルクは今季も上位進出候補クラブに挙げられていたが、開幕から2連敗でまさかの最下位スタートとなってしまった。2週間の代表中断期間にどこまで立て直しできるかに注目が集まっている。

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 そもそも日本代表MF堂安律がフランクフルトへ移籍した以外、スタメン勢に大きな変化はなかったフライブルク。1人で攻守に数々のタスクをハイレベルで担っていた堂安の穴を埋めるのは簡単ではないとはいえ、他のメンツは長年フライブルクでプレーしている選手ばかり。昨季10ゴール8アシストをマークした堂安の得点力がなくなる痛手はとても大きいものの、チームパフォーマンスが大崩れすることはないと思われていた。

 だが、開幕のアウクスブルク戦ではチャンス数10対4と押し気味に試合をすすめながら、守備のミスで3失点。2戦目のケルン戦でも軽率なミスから簡単な失点が続いて1-4で完敗。思いもよらぬ低調なパフォーマンスに監督のユリアン・シュスターは試合後に、厳しいコメントを口にしている。

「負けるべくして負けた試合だ。ああいう守備をして、簡単に失点をしてしまったら、ブンデスリーガで試合を自分たちのものにするのは難しい。きょうの試合からは残念ながら今後に向けてポジティブなものを見いだせなかった」

 アウクスブルクとケルンの2試合では、昨季ボランチでレギュラーだったMFパトリック・オスターハーゲが負傷離脱したことを受け、本来トップ下のスイス代表MFヨハン・マンゾンビがボランチに、そして新加入のMF鈴木唯人がトップ下で起用された。攻撃面ではマンゾンビの推進力や鈴木のチャンスメイク力がプラスに働くシーンもある。ただその頻度があまり多くはなく、さらに守備面で相手にかいくぐられることが多かったのが気になるところだ。

 昨季のフライブルクは選手間の距離が常に適切に保たれていて、いいタイミングで前線から精力的にプレスをしかけるのがうまかった。FWがファーストDFとしてダッシュでプレスに入ると、周りの選手が連動して相手のパスコースを消しながらボール奪取の準備をしていく。パスの出しどころに困った相手のロングキックを回収し、素早く攻撃に展開するのは得意なパターンの一つだった。

 だがケルン戦では前線からの連動性があまり見られず、相手中盤選手がフリーで簡単にボールを受けるシーンが続いてしまう。開幕から2試合連続スタメンを飾った鈴木にその点について尋ねてみた。

「そうですね。(中盤にパスを通されたのは)間違いないんですけど、前から行くというのはある意味チームとして強みとしているところ。きょうはうまくそこを相手につかれて、簡単にやられてたなという印象です」

 インテンシティのところでケルンに上回られた点も大きな反省点だ。相手を無力化するほどのインテンシティの高いプレーの連続がフライブルクらしさだったはず。その旗頭でもあった堂安がいない影響は思いのほか大きい。連続でプレスを仕掛け、すぐにスペースを埋め、ボール奪取後すぐに飛び出していき、パスを何度も引き出し、ボールを持ったら違いを生み出すプレーを1試合中続けていた。

 同ポジションに入っているFWエレン・ディンクチにそのすべてを求めるのは、酷な話だろう。とはいえ、守備におけるインテンシティは必要最低限の要素なのは間違いない。ディンクチだけではなく、鈴木にもそこでの貢献は求められている。鈴木はこのように語る。

「すべてのところでこのチームはインテンシティで上回っていくみたいな形を取ってると思う。しかけて相手より上回っていく方が強いと思っています。もちろん全部いけるわけじゃないので、バランスも大事です。もう少しうまく試合を進めればいいなと思います」

 シュスター監督はこの2試合を受けて、原点回帰を明言している。

「ここからの2週間で、また自分たちの安定感を取り戻すというのが明確な目標になる。いい守備をするのは自分達のベースで基盤だった。大事なのは、課題に対して明確な視点を持つこと。自分自身に対しても批判的な目で反省している。守備のベースについて改めて考えなければならない」

 ひとつのヒントとなるのはケルン戦の後半の布陣と戦い方かもしれない。3バックに変更し、ベテランボランチのMFニクラス・へフラーを投入することで守備バランスが安定した。2シーズン前のクリスティアン・シュトライヒ監督時代にも、チームパフォーマンスがどんどん低調下したときに、3バックでコンパクトな守備を徹底することで低空飛行から脱出したことがあった。今回も中断期間にそうした決断が下されても不思議ではない。まずはベースを取り戻さなければならない。

 代表でチームを離れる鈴木にとっては、そのプロセスをともにできないことで、しばらくスタメンから離れることもあるかもしれない。だがベースを取り戻したチームは、今度ゴールへの可能性を高める作業にも取り組むことが求められる。そこで必要となるのが鈴木の存在だろう。

 連敗スタートに納得いく選手などいない。鈴木もそうだ。だからといって不必要に慌てたり、全てを変えることもまた違う。鈴木は落ち着いた口調でこう話していた。

「やり続けるしかないと思います。試合は次から次へとくるので、何ができないのか、何を修正しないといけないのか、自分たちでしっかり考えて、次に向けてやるしかないんじゃないかなと」

 そしてこうも口にしていた。

「下向いて、やるべきことを見失うよりかは、また次に向けてうまくやれるチャンスだと。また強くなって帰ってきたいなと思います」

 フライブルクも、鈴木も、シーズンはまだまだこれからだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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