大学入学で「ずっと比べられることに」…ライバルが欧州行き、突きつけられる「彼の残像」

海外移籍をした内野航太郎(手前)と小林俊瑛【写真:安藤隆人】
海外移籍をした内野航太郎(手前)と小林俊瑛【写真:安藤隆人】

筑波大3年のFW小林俊瑛「卒業するまでずっと残ることを覚悟している」

 9月3日から大学サッカーの夏の全国大会である第49回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントが開幕する。

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 昨年度の大会では準決勝で新潟医療福祉大学の前に0-0からのPK戦で敗れた筑波大学は、今季の関東大学サッカーリーグ1部で2位の好位置につけている。過去3回の優勝を誇る大学サッカーの名門が挑む夏への決意を、プロ注目選手の6人に話を聞いた。

 第4回は190センチの筑波大が誇るハイタワー・小林俊瑛について。同級生で1トップのポジション争いをしてきたFW内野航太郎が今夏にデンマーク1部リーグのブレンビーIFへ電撃加入。関東1部のチームトップスコアラーが抜けた穴を埋めるべく、彼の奮起の夏が始まる。

「内野が抜けることで、自分にかかるプレッシャーは一気にのしかかって来ると思う。でも、それを力に変えないといけないと思っています」

 小林にとって内野の存在は共に筑波大学に進学すると決まった時から、絶対に超えないといけないライバルだった。内野は圧倒的な得点感覚と、サイズも小林より4センチ低い186センチ。ポストプレーや空中戦も得意で、お互いスピードがある。裏抜けやクロスへの飛び込みも得意と、タイプとして重なる部分は多かった。

 それゆえに「4年間、ずっと比べられることになると思った」と小林は覚悟を決めていた。実際に昨年までは内野の後塵を拝す時期が続いた。スタメンで内野がゲームを決めて、終盤で自分が投入されて、前線で身体を張ってボールを収めたり、トドメのゴールを狙ったり、試合のクロージングを託されることも多かった。時には内野とハイタワー2トップを組むこともあるが、やはり不動のエースストライカーは内野だった。

 悔しい気持ちと「俺は俺だ」という気持ち。彼は葛藤を抱えながらも前を向き続けた。

「僕は足元で受けて仕事をするタイプで、内野は『ザ・ストライカー』。タイプが違うとは思っていますが、やっぱり強烈に意識をするライバルであり、刺激を受ける存在であり、心から尊敬する選手です。練習試合でも紅白戦でも内野がゴールを決めるのかどうかは気になりますし、決めたら『次は俺が』という気持ちを奮い立たせてくれるんです」

 最高のライバルであり、仲間であり、いつも目の前に突きつけられる大きな壁だった。大きな存在だったけど、彼がいなくなってもライバルという認識は変わらない。

「内野が抜けたことで、当然、より内野との比較が大きくなると思います。自分がゴールを決められなかったら、どうしても『内野がいたら』と思われてしまう。これから彼の残像との比較が、卒業するまでずっと残ることを覚悟しているからこそ、変わらぬライバルとして意識しながらも、『自分は自分』の気持ちを変わらずに持って、自分の特徴を発揮してゴールに結びつけたいと思っています」

 アミノバイタルカップから今大会までの期間、彼は得意とするクロスへの飛び込みの質とバリエーション、シュート技術や裏への抜け出しなどを磨く一方で、ゲームメイクの部分でも縦パスやクサビのパスを受けて周りに散らしたり、ターンをしてからスルーパスを出したりするつなぎのプレーを意欲的に磨いた。

 その際にイメージをしたのが、京都サンガF.C.のFW原大智だった。身長は小林と同じ191センチでスピードとスプリントを繰り返せる能力があり、今年のE-1サッカー選手権では日本代表に追加招集されていた。

「今のサッカーの主流は大きい選手でも、中盤に落ちてボールを受けて捌くプレーを求められています。今年の途中まではただガムシャラにFWとして点を取ることにフォーカスを当ててきたのですが、自分と特徴が似ている原選手のプレーを見て意識が少し変わりました。原選手はスペースに落ちるタイミングとスピードが凄くて、そのなかで周りをしっかりと見て正確にボールコントロールやターン、パスを配ることができる。そこを意識するようになりました」

 実際にトライをすると難易度は高かった。「どうしても少しトラップが浮いたり、ボール捌きがうまくいかなかったりする。その繰り返しでした」と、ミスを重ねながらもトライし続けた。今、徐々にプレーの精度が上がってきている手応えを感じつつある。

「僕のやるべきことは明確になっていますし、日頃の練習からチャレンジできているので、楽しさも感じています。だからこそ、早く公式戦がしたいし、早く自分の力を証明したいという思いが強いです。最近、ミーティングで戸田(伊吹)ヘッドコーチが『内野や廣井(蘭人、負傷離脱中)のトップスコアラーが抜けたからと言って、ゴールが取れなくなりましたは違うよね』と話していて、本当にその通りだと思いましたし、より自分がやらないといけないと身が引き締まる思いもあるので、総理大臣杯ではチームのために力を発揮したいと心から思っています」

 6月に行われた天皇杯2回戦のV・ファーレン長崎戦では鮮やかなワントラップシュートを突き刺すなど、能力の高さは実証済み。成長を続けるストライカーには、内野の残像以外にも、大津高の後輩である昨年度のプレミアリーグWEST得点王の1年生FW山下景司の存在も小林に影響を与えている。

「僕には2人のライバルがいて、刺激を常に受けられているのは幸せなこと。山下とはコンビを組むこともあるので、お互いの良さを引き出せるように、頼もしい仲間として連携をとっていきたいと思っています」

 遠くの友と、近くの後輩と切磋琢磨をしながら、筑波大のハイタワーは唯一無二の価値を発揮するために着実に準備を重ねている。東北の地での爆発を心に誓って。

(安藤隆人 / Takahito Ando)

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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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