欧州指導者が語る日本サッカー育成改革の“現実解” 「もっと増やしたほうがいい」

欧州で指導する平川聖剛氏も驚き…プロ志向を育むセルフモチベーション
世界有数の育成アカデミーを持つ1.FCケルンで、U17のアシスタントコーチとして指導にあたる平川聖剛氏。かつてブンデスリーガのトップチームでアナリストを務めた経験を持つ彼は、ドイツと日本の育成環境や選手の姿勢に明確な違いを感じているという。欧州の最前線に身を置いたからこそ見えてきた、日本サッカー育成改革へのヒントとは――。(取材・文=中野吉之伴/全4回の3回目)
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ブンデスリーガのケルンでアナリストとして1シーズンを戦い、現在は同クラブのU17でアシスタントコーチを務める平川聖剛。ケルンの育成アカデミーは、ドイツでも屈指の実力を誇る。多くの選手がここからプロへのステップアップを果たしており、直近で最も有名なのはドイツ代表MFフロリアン・ヴィルツだ。U17の段階でレバークーゼンへ移籍しトップデビューを飾っているが、育成年代の大半をケルンで過ごしていた。
ドイツの街クラブでも指導経験のある平川に、プロクラブのアカデミーと街クラブの子供たちの違いについて尋ねた。
「やはりセルフモチベーションじゃないですかね。こちらが何も言わなくても、自分から練習に意欲を持っている選手ばかりです。街クラブにも、プロの育成アカデミーで通用するような資質を持った選手はいましたが、練習への姿勢は全然違うと感じます。僕が担当しているチームは、2シーズン前はU15、昨季はU16で連続優勝していますが、スモールサイズのゲームなんかはもう削り合いの連続です。みんなが『絶対に俺が試合に出る!』という気持ちを前面に出してきます」
こうした選手を意図的に選んでいるのかというと、そういうわけではないという。それは、ケルンというクラブが持つ歴史や地域的背景とも関係がある。周辺にはレバークーゼン、ボルシアMG、デュッセルドルフ、デュイスブルクといったブンデスリーガのクラブが隣接し、ケルン市内にもフォルトゥナ・ケルンやビクトリア・ケルンといった3部クラブが存在している。
「他クラブからオファーをもらう選手もいますが、『FCケルンでやりたい』『ここで学びたい』という選手が本当に多いんです。小さい頃からケルンのスタジアムで試合を見ていて、あの雰囲気に憧れを持っている。町全体にとって“FCケルンでプレーする”というのは、ものすごく大きなステータスなのは間違いないです」
「ゴールを置いた練習をもっと増やしたほうがいい」と語る訳
ケルンU19は2024-25シーズンに優勝し、2025-26シーズンのUEFAユースリーグ出場が決定している。そんな育成に定評あるクラブで活動する平川に、「欧州サッカーによりスムーズに、より効果的に順応するため、日本サッカーの育成で必要なことは何か」を尋ねてみた。
「よく言われることですが、ツヴァイカンプフ(闘い・勝負)へのこだわりはもっとあっていいと思います。本気で『あいつには負けない!』っていうアグレッシブさを持って、ファウルしろとは言いませんが、バチバチに身体をぶつけてでも奪いに行く意識は、サッカーにおいて本当に大事です。そこで多少の小競り合いがあっても、それをピッチ外に持ち込まないメンタリティも同時に育てる必要があります。そして、『ボールを奪いに行く』という守備のスタンスをもっと養うべきです。日本では、育成年代で“1対1ではリトリート優先”という考え方が強く残っていますが、そうではない守備の選択肢を学ぶ必要があると思います」
さらに、トレーニング環境についても提言する。
「ロンド(パス回し)ばかりやるのではなくて、ゴールを置いた練習をもっと増やしたほうがいい。パスをつなぎ続けるよりも、シュートを打って、ゴールするほうが楽しいという感覚を選手たちに持たせたほうが、サッカーというスポーツを理解して楽しむうえでも理に適っていると思います」
ただし、日本にはグラウンド問題が付きまとう。1つのピッチで100人近い選手が同時にトレーニングすることもあるだろう。そうなれば、トレーニングのオーガナイズも難しくなる。
筆者がA級ライセンス講習を受けた際の指導教官で、長年ドイツ指導者育成の第一人者として数々の指導者を育ててきたベルント・シュトゥーバーは、日本の状況についてこう語っていた。
「日本の現状を考えると、まずはグループをもっと小さくするべき。全員が同じメニューをやるのではなく、6~8人、多くても10人のグループでトレーニングをしなければならない。80人の選手がいて、ゴールの数も足りない。それでは日本の指導者が“ゴールを使った練習”をどうやって行えばいいか分からなくなるのも理解できる話だ。そんななかで、『サッカーではゴールが決定的に大事』ということをどうやって学ぶというのか。パスが大事、ドリブルが必要という話ではない。ゴールが大事なんだ。ゴールにつながるプレーにならなければならない」
練習の質を下げる行為への警鐘、“本質”を問うドイツ育成のリアリズム
さらにシュトゥーバーは、具体的な解決策についても言及した。
「少人数の試合形式を、トレーニングでもっとやったほうがいい。3対3や5対5の練習をすれば、攻撃だけでなく守備のスキルも鍛えられる。パス練習だけ、ドリブル練習だけではサッカーはダメ。そうすることで、ゴールを目指すプレーとゴールを守るプレーの本当の機会を増やすことができる」
重要なのは、トレーニングの「強度」と「プレー頻度」をどう確保するかという点だ。ボールがどこかへ飛ぶたび選手が拾って戻ってくると、その時間は無為になりがちで、結果として練習の質を損なう。平川も次のように語る。
「ケルンでもそうですが、ドイツに来てまず驚いたのが、ゴールの数の多さ。どのチームもミニゴールをたくさん持っています。プロクラブだけでなく、小さな街や村のクラブでも、ミニゴールを何十個も揃えている。特に小学生年代のトレーニングでは欠かせない存在です。ボールの数が多いのも驚きました。ケルンのU16では、1回のトレーニングで50個近くボールを用意します。練習中にボールを拾いに行く時間は基本的にありません。もちろん休憩時間や練習後に回収はしますが、そうすることでトレーニングの質を高く保つことができる。それをすごく大切にしています」
サッカーをできる環境をどう作るか――。当たり前のようでいて、それがなければ“サッカー”にはならない。本質的な問いだ。そしてシュトゥーバーのこの言葉に、ぜひ真剣に耳を傾けてほしい。
「例えば、60人の部員がいるから難しいと嘆く指導者もいるだろう。だが、日本では3~4時間トレーニングすることもあるじゃないか。それなら、20人ずつに分けて1時間~1時間半ずつ練習したほうが、はるかに効率的で効果も高いことを知ったほうがいい」
(文中敬称略)
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。




















