新戦力獲得の舞台裏…鈴木優磨に「当然、連絡を」 後押しする愛弟子「漢にしてくれ」

岩政大樹監督が意識する「Z世代」へのマネジメント
開幕4連敗という予期せぬ苦境から脱したものの、5月までは勝ったり負けたりという落ち着かない戦いが続いていた岩政大樹監督率いる北海道コンサドーレ札幌。それでもエースFWのアマドゥ・バカヨコが5月からゴールを上積みするようになり、ここまでチームトップの7点を取っている。決定力不足にあえいでいた彼らにとってはまさに朗報。今季初めて6戦無敗という快進撃を見せた5月31日のベガルタ仙台戦から7月5日のレノファ山口戦の間には、キャプテン・高嶺朋樹、攻撃の軸を担う青木亮太、若手の原康介、新戦力のマリオ・セルジオらもゴールしており、さまざまな得点者が生まれつつある。(取材・文=元川悦子/全7回の3回目)
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「『個人を成長させる』というのは、僕が指導者として大事にしていること。今季は1人1人とまず面談して、彼らのやりたいこと、キャリアデザインなどを聞いたうえで、できる限りチャンスを与えて、そこで気づいたことを改善できるような問いかけをしながら、変化を促してきました。とにかくこまめにコミュニケーションを取るということですね。これまでのスポーツ界ではイエスかノーかといったマネジメントが多かったと思いますけど、Z世代の若者たちにはそれでは響かない。中断期間の練習では少し強めの投げかけもしましたけど、時には厳しさも必要。そうやって自分なりにメリハリをつけながらアプローチしてきたつもりです」
「外国人選手にもこまめなサポートは意識的に行いました。昨年までのコンサドーレはそこに課題があったと聞いている。今、Jリーグにいる外国人は順風満々に来たわけではない。それを認識したうえで、映像を作って課題に気づかせたり、要求したり、少し厳しめな言葉を使って高みを目指してもらうように仕向けてきました。バカヨコはそういう積み重ねの結果で明確な進化が見られる選手。練習の姿勢も変わったし、日本語も覚えてチームになじんでいるなと嬉しく思います」
確かに取材日だった7月23日も猛暑のトレーニングの後、バカヨコがスタッフに囲まれながら「アツイ。ニホンはアツイネ」と笑顔で話している姿があった。彼の出身国・シエラレオネも暑いのだろうが、長くキャリアを過ごしたイングランドは日中35度というのはなかなかない。この環境に適応しなければ、今後のさらなる活躍は見込めない。それはマリオ・セルジオやジョルディ・サンチェスについても言えること。外国人の奮起も岩政監督の目論む「大型連勝」のカギになるだろう。
鹿島の後輩・鈴木優磨との関係「悔しさを人一倍感じてくれた」
シーズン中の変化という意味では、6月に名古屋グランパスから加入した宮大樹、RB大宮アルディージャから赴いた浦上仁騎の存在も大きかった。宮はアビスパ福岡時代の2023年にYBCルヴァンカップ制覇の原動力となったDF。今季移籍した名古屋では出番を得られず苦しんだが、実績は十分だ。
一方の浦上もヴァンフォーレ甲府に2022年天皇杯優勝を経験。サンフレッチェ広島とのファイナルにもスタメン出場していて、大舞台を知る男だ。しかも、鈴木優磨(鹿島)の小学校時代からの親友。今回札幌入りするに当たっても「大樹さんを漢にしてくれ」と直々に言われたということで、岩政監督にとって力強く頼もしい存在だ。その2人が入ったことでチームの雰囲気はガラリと変わったと言っていい。
「2人が入ったことで、僕の言葉が伝わりやすくなったし、僕が何か言わなくても、彼らが伝えてくれる。そうすれば、僕はより戦術的な話をしやすくなる。それは間違いなく大きな効果ですよね。試合中の厳しい時間帯に解決策を自分たちで見出せるようになってきたのも、大きな前進だと思います。仁騎を取るに当たっては、優磨には当然、連絡を入れて、キャラクターや特徴を聞きました。優磨は選手時代の自分が鹿島を離れた後にトップ昇格してきた後輩なんで、一緒にプレーする機会はなかったですけど、僕がやりたいことをよく理解している人間。監督・選手の間柄だった2022~23年も『大樹さんはやりたいサッカーがあるけど、今の鹿島ではできないし、させてあげられない』という悔しさを人一倍、感じてくれたのかなと感じています。だからこそ、今回、仁騎にそんな言葉をかけたのかなと僕なりに推測しています」
指揮官は新戦力、そしてかつての後輩・教え子にも感謝を口にしていた。
宮・浦上、マリオ・セルジオらの加入効果というのは、岩政・札幌のモチベーションをもう一段階引き上げる効果もあった。というのも、今季開幕時のメンバーはほとんど昨季在籍したメンバー。J1・19位になり、降格を強いられた事実を受け止めながら、もう1回、這い上がってやろうと一丸となってスタートしたに違いない。

札幌が信じたJ2での戦い方「既存戦力を成長させ、新たな血に起爆剤に」
ただ、それだけでは足りないところがあったのも事実。「新たな血」が入ることで、自分たちを冷静に客観視し、足りない部分に気づき、それを埋めながら、さらなる飛躍を追い求めるようになってきたのだ。
「他のクラブには、監督が変わった瞬間に選手を大幅に入れ替えて、ガラリと陣容も変化させてやっているところもありますけど、すでに話した通り、我々はそういうやり方を取らなかった。既存戦力を成長させ、新たな血に起爆剤になってもらい、より切磋琢磨できる環境にしたということなんです。それは必ず今後のプラスにつながると信じて、前進していきたいと思っています」
8月2日の再開初戦は同じ降格組のサガン鳥栖戦。翌週の9日はV・ファーレン長崎とのアウェーゲームだ。そこで6ポイントを手にできるか否かで今後の動向も大きく変わる。そこまでに最高の準備をしておきたいところだ。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)

元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。




















